先日、年商12億の建設業を営む60代の社長から、こんな相談を受けました。
「自分の株、評価が高すぎて、このまま死んだら子どもが税金で会社を手放すことになるんじゃないかと…」
笑い飛ばせない話です。業績が好調な中小企業のオーナーほど、気づかないうちに自社株評価が膨れ上がり、試算してみると相続税が5億・6億という数字になっているケースが少なくありません。
自社株の「評価」が相続税の大きさを決める
中小企業オーナーの相続において、財産の大半を占めるのは「自社株式」です。不動産や現金と違い、自社株は会社の業績が上がるほど評価額が上がります。
非上場株式には「純資産価額方式」が使われることが多く、これは会社の純資産(資産-負債)をベースに計算します。長年事業を続けてきた会社には土地や設備の含み益が積み上がっていることが多く、これが評価を押し上げます。
評価額が10億円になっていた場合、子どもへの相続だけで税額が4〜5億円規模になることも珍しくありません。
持株会社を挟むと評価が下がる理由
ここで有効な手段のひとつが「持株会社スキーム」です。新たにホールディングス会社を設立し、そこに事業会社の株式を移します。
ポイントは純資産価額方式の計算ロジックにあります。持株会社が「株式等保有特定会社」に該当しない構造で設計できた場合、含み益の部分に法人税等相当額(現行37%)を控除して評価することができます。
「もし今すぐ売却したら法人税がかかるはずだから、その分を差し引く」という考え方です。この控除が効くと、評価額が30〜50%圧縮されるケースがあります。
評価額10億円だった株式が持株会社スキームを経由して5〜7億円規模に下がれば、課税の基礎となる財産額が大きく変わります。相続税の税率が高い層(45〜55%)であれば、理論上1億5千万〜2億5千万円規模の削減効果が見込める計算です。
「株式等保有特定会社」という見落としがちな落とし穴
ただし、設計を誤ると逆効果になります。
持株会社が保有する資産のうち、株式等の割合が一定基準を超えると「株式等保有特定会社」に該当します。こうなると、先ほどの37%控除が使える計算方法が適用できなくなり、節税効果がほとんど出ない、あるいは評価が上がるケースもあります。
対策としては、持株会社に不動産や事業用資産を持たせて株式以外の資産比率を上げる方法や、移転タイミングを事業年度単位で調整する方法などがあります。いずれも「構造設計」と「移転タイミング」が命で、これを抜きにして安易に法人を作るのは禁物です。
「まだ元気だから」という先送りが一番のリスク
多くの社長が相続対策を後回しにする理由は、「まだ自分は若い」「会社が忙しい時期だから」というものです。
しかし持株会社スキームには、法人設立・株式移転・登記・税務申告から組織として機能するまで、最低でも1〜2年はかかります。さらに、移転直後に相続が発生した場合は節税効果が認められないケースがあり、一定の「安定運用期間」も見込む必要があります。
60代に入ったら、まず「今の自社株評価額はいくらか」「そのまま相続すると税額はいくらになるか」を数字で把握することから始めてください。試算をするだけで、行動の優先度は変わります。
事業承継や持株会社スキームの実績がある税理士に相談して、まず現状評価を出してもらうのが最初の一歩です。対策は早ければ早いほど選択肢が広がります。手遅れになる前に、一度数字と向き合ってみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。