「20億の会社、相続したら半分消える」——先日、そんな言葉をある社長からぽつりと聞きました。製造業を30年営み、会社を一代で育て上げた60代の方です。「自分の会社の株が20億円と言われたんだが、相続のとき本当にそんな税金がかかるのか」という問いから始まった相談でした。

税率表を確認すると、20億円規模の非上場株式には最高税率55%が適用される部分が出てきます。単純計算すれば、最大11億円近くが税として消えていく可能性があります。30年かけて築いた会社を子どもにそのまま渡したい。そのためにはまず、この「評価の壁」を越えなければなりません。

「評価額を下げる」という発想の転換

多くの社長が「どうやって節税するか」を考えます。でも、より本質的な問いは「どうやって評価額を下げるか」です。

相続税は「財産の評価額 × 税率」で決まります。合法的に評価額を下げることができれば、税額も自然と変わってきます。この観点で有効な手法のひとつが、持株会社(ホールディングス)の活用です。うまく設計できれば、評価額を40〜50%圧縮できるケースがあります。20億円が10〜12億円になれば、節税額は4〜5億円規模になります。

なぜ持株会社で評価が下がるのか

具体的な仕組みを見ていきましょう。

本業の事業会社の株式を、新たに設立した持株会社(HD)に移します。このとき、HDが保有する事業会社の株式を評価する際には純資産価額方式が適用されます。

この方式には重要な特徴があります。法人税等相当額として37%が自動的に控除されるのです。「もし今すぐ資産を売却したら法人税がかかるはずだ」という考え方に基づく制度上の調整で、これだけで評価額がぐっと下がります。

さらに、同業の上場企業の株価をもとに算定する類似業種比準価額との折衷方式を組み合わせることで、評価をさらに引き下げられる場合があります。この2つの効果が重なることで「40〜50%圧縮」が実現するのです。

「形だけ」の持株会社は税務調査で否認される

ただし、ここで絶対に押さえておきたい注意点があります。

節税効果だけを目的として、実態のない持株会社を設立することは、税務調査で否認されるリスクがあります。「形式上HDを作って株式を移した」という構成は、租税回避として指摘される可能性があるのです。

持株会社が本当に経営管理機能を担っているか、役員報酬の支払いや経営会議・意思決定の流れが実際に機能しているか——これらが税務調査では厳しく問われます。否認されると、節税どころか加算税・延滞税まで課される最悪の事態になりかねません。設計段階から、事業承継に精通した税理士と連携して進めることが必須です。

「まだ先」が一番危ない

持株会社の設計は、相続が発生してからでは間に合いません。設立・株式移転・事業実態の整備には、最低でも数年単位の時間がかかります。

「まだ元気だから」「あと10年はある」と先送りしている間に、業績が伸びて株価が上がれば評価額も膨らみます。20億が30億になってからでは、対策のコストも難易度も跳ね上がります。50代後半〜60代の社長であれば、今が設計を始める最後のタイミングと考えていいくらいです。

まず「自社株の評価額」を知ることから

最初のステップは、自社の株式が今いくらで評価されているかを把握することです。非上場株式の評価計算に対応できる税理士であれば算定できます。数字を見てから「対策が必要かどうか」を判断しても遅くはありません。

評価額を把握したうえで、持株会社の活用が有効かどうかを専門家と検討する——この順番が正しいアプローチです。まずは「自社株の評価額を計算してほしい」と顧問税理士に声をかけるところから始めてみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。