先日、年商12億の建設会社を経営するオーナー社長からこんな連絡がありました。

「10年前に契約した逓増定期保険、そろそろ解約して退職金に充てようと思っているんだけど、何か気をつけることある?」

話を聞いてみると、保険設計はしているものの、退職金としての受け取り方やタイミングについてはほとんど考えていない状態でした。このまま進めると、準備した3億円が大幅に目減りしてしまう可能性があります。

逓増定期保険を使った退職金設計は、正しく設計・実行できれば強力な節税手段になります。ただ、落とし穴も多い。今回は実際に現場でよく見る「やりがちなミス」を3つ、率直にお伝えします。

解約は「退職の2〜3年前」が鉄則

最初のミスは、解約のタイミングを退職と同じ年度に合わせてしまうことです。

逓増定期保険を解約すると、解約返戻金は法人の「雑収入」として計上されます。これが問題で、社長がまだバリバリ働いている時期に解約してしまうと、その雑収入に対して法人税が40%超でかかってくることになります。

退職金を「受け取る年度」に向けて逆算し、法人の益金が少ない期に解約するのが基本的な考え方です。理想は退職の2〜3年前に解約して、いったん法人に資金を積み上げておくこと。その後、退職時に退職金として支出することで、損金算入の恩恵を最大限に活かせます。

タイミングひとつで、数千万円単位の税負担差が生まれることも珍しくありません。

2019年改正後のルールで設計し直しているか

次によくあるのが、2019年の税制改正前に設計したスキームをそのまま使い続けているケースです。

2019年以降、最高解約返戻率が85%を超える保険については、損金に算入できる保険料の割合が大きく制限されるようになりました。改正前と同じ感覚で「全額損金」と思い込んでいると、税務調査で追徴課税を受けるリスクがあります。

具体的には、最高解約返戻率に応じて損金算入できる割合が段階的に変わります。85%超〜90%以下、90%超〜95%以下、95%超でそれぞれ取り扱いが異なり、加入時期によっても適用されるルールが違います。

「昔、税理士に勧められた保険だから大丈夫」というのが一番危ない思い込みです。契約年と現在の税務ルールを照らし合わせて、現状の処理が正しいかどうかを今すぐ確認しておくことをおすすめします。

退職金の「適正額」を計算していない社長が多すぎる

そして、最も致命的なミスがこれです。退職金の金額設定を、保険の解約返戻金の金額に合わせてしまっているケース。

役員退職金には、税務上の「適正額」があります。計算式は次の通りです。

退職金の適正額 = 最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率

功績倍率は一般的に代表取締役で3.0が上限とされています(業種や会社規模によって異なります)。たとえば月額報酬150万円・勤続20年・功績倍率3.0なら、上限の目安は9,000万円です。

この計算をせずに「保険金が3億入ってくるから、退職金も3億にしよう」と決めてしまうと、税務署から退職金の一部または全額を「不相当に高額」として否認されるリスクがあります。否認されると、退職金として損金算入していた分が全額課税所得に戻されます。

年商10億を超えてくる規模の会社なら、役員報酬・勤続年数・功績倍率のバランスを整えれば2〜3億の退職金設計は十分に現実的です。ただし、そのためには「報酬設計」と「保険設計」と「退職時期」をセットで考える必要があります。どれか一つだけを見ていても、全体最適にはなりません。

退職金設計は「出口」から逆算して考える

逓増定期保険は、設計さえ正しければ非常に有効な退職金準備ツールです。ただ、「保険に入った=節税できた」という感覚は少し危険です。入口(保険契約)だけでなく、出口(解約・退職金受取)まで一貫して設計されていて、はじめて機能します。

今すでに逓増定期保険に加入している社長は、一度「解約返戻金のピーク時期」「退職予定年度」「退職金の適正額」の3点を確認してみてください。この3つがきれいに揃っていれば、大きな問題は起きにくい。ズレているなら、早めに修正する余地があります。

退職まで5年を切っているなら、今すぐ動いた方がいいです。設計の見直しは早ければ早いほど選択肢が広がります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。