先日、年商12億の建設会社を経営する社長からこんな相談を受けました。

「退職金のために毎年2,000万円ずつ会社の口座に残しているんだけど、これって正しいやり方なの?」

正直に答えました。「社長、それ、かなりもったいないですよ」と。

現金で積むと、半分以上が税金に消える

会社の利益から現金を内部留保として積み上げる方法は、一見シンプルで安心感があります。でも落とし穴があります。

その現金は、法人税・地方税を差し引いた「税引き後の利益」から積んでいますよね。実効税率が30〜35%前後の会社では、1,000万円を手元に残すために、そもそも1,400万円以上の利益が必要です。

つまり、退職金を現金で準備しようとすると、積み上げる前の段階ですでに30〜40%近くを税金として国に渡してしまっているわけです。10年かけて3億円を貯めようとすると、その過程で1億円超が税金として消えている計算になります。

逓増定期保険という選択肢

ここで多くの年商10億超の会社が使うのが、逓増定期保険という法人保険です。

逓増定期保険は、保険期間の前半に死亡保険金が段階的に増加し(これが「逓増」の意味です)、一定期間後に解約すると高い解約返戻金が受け取れる仕組みの定期保険です。

重要なのは税務上の取り扱いです。商品の種類や設計によって異なりますが、保険料の一定割合を損金として計上できます。たとえば損金算入割合が60%の商品の場合、年間5,000万円の保険料を支払えば、そのうち約3,000万円を損金として落とせます。

これを10年続けると、損金算入累計は3億円。その分、法人の課税所得が圧縮されますから、単純計算で1億円規模の税負担軽減効果が生まれることもあります。同時に解約返戻金という形で退職金の原資も積み上がっていく、これが逓増定期保険の魅力です。

出口設計がすべてを決める

ただし、保険を契約するだけでは節税スキームとして完結しません。本当に重要なのは「出口」の設計です。

保険を解約するタイミングと、役員退職金を支給するタイミングを合わせることが鍵になります。

保険を解約すると、解約返戻金が法人の益金(収入)として計上されます。そのままでは法人税が課かってしまいます。そこで同じタイミングで役員退職金を支給することで、退職金が損金となり、解約益と相殺できるわけです。

さらに、退職金を受け取る役員(社長)側でも大きなメリットがあります。退職所得には「退職所得控除」という強力な控除があり、長年勤務した役員であれば数千万円単位の控除が受けられます。しかも残った退職所得は2分の1課税。給与や配当と比べて、圧倒的に税負担が軽い受け取り方ができるのです。

法人側で益金と損金を相殺しつつ、個人側でも退職所得控除をフル活用する。この「法人と個人の両面最適化」こそが、大型退職金設計の醍醐味です。

注意しておきたい3つのポイント

とはいえ、この手法には気をつけるべき点もあります。

まず、保険商品の選定です。逓増定期保険は商品によって損金算入割合も解約返戻率も大きく異なります。また2019年以降の税制改正で取り扱いが変わっており、古い情報をそのまま信じるのは危険です。必ず現行ルールに詳しい専門家に確認してください。

次に、キャッシュフローへの影響です。年間5,000万円の保険料は決して小さな金額ではありません。保険料支払いが会社の資金繰りを圧迫しないよう、綿密な収支計画が前提になります。

そして、退職時期の見通しです。あまりにも先の退職を見越して長期契約を組むと、途中解約した場合に返戻率が低く損をすることがあります。社長の年齢や事業承継の計画と照らし合わせて、現実的な出口時期を設定することが大切です。

「退職金は現金で」という思い込みを手放す

年商10億を超えると、会社のキャッシュが潤沢になってきます。だからこそ「余裕があるから現金で積んでおけばいい」という判断になりがちです。でも実は、その段階になったからこそ、税効率の高い方法を選ぶ意味が出てきます。

払う税金を1円でも減らして、手元に残るお金を最大化する。それが経営者としての正しいお金の使い方だと私は思っています。

退職金の準備をまだ現金頼みで進めているなら、一度立ち止まって逓増定期保険の活用を検討してみてください。特に50代に入った社長は、設計できる期間が限られてきますから、早めに動くほど選択肢が広がります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。