先日、年商10億円ほどの建設会社を経営する社長から、こんな相談を受けました。
「顧問の保険屋さんに勧められて、逓増定期保険を1本入ってるんですけど、これで十分ですよね?」
その一言を聞いて、正直に言いました。「社長、それだと本来取れる損金の半分しか取れていないかもしれませんよ」と。
保険1本では「損金の枠」を取り切れていない
法人保険の節税効果は、保険の「種類」によって損金に算入できる割合が大きく異なります。
たとえば逓増定期保険は、保険料の50%しか損金にできません。残りの50%は資産計上になります。これ自体はルール通りの話で、決して悪い保険ではありません。
ただ、「逓増定期保険1本で節税は完了」と思っていると、実はもったいないことになっています。保険には種類ごとに異なる損金ルールがあって、うまく組み合わせれば、全体として損金に落とせる金額を大きく増やすことができるからです。
ここが、税務署も保険会社の営業マンも積極的に教えてくれないポイントです。
「組み合わせ設計」で損金が劇的に変わる理由
具体的に考えてみましょう。
年間保険料が3,000万円あると仮定します。これをすべて逓増定期保険に充てると、損金に落とせるのは1,500万円(50%)です。
では、逓増定期保険と短期払い終身保険を組み合わせたらどうなるか。
短期払い終身保険は、一定の条件を満たすと保険料の全額を損金にできます。つまり、3,000万円のうち一部を短期払い終身に振り向けるだけで、損金算入できる総額が一気に増えるのです。
同じ3,000万円の保険料を払いながら、損金に落とせる金額が1,500万円から2,000万円以上に増えるというイメージです。これは法人税率が30%前後とすれば、実質的なキャッシュアウトの差が150万円以上になることを意味します。
1本のままにするか、組み合わせるかだけで、これだけの差が生まれてしまうのです。
退職金原資も「同時に」積み上げられる
組み合わせ設計のもうひとつの魅力は、節税しながら退職金の原資もセットで準備できる点です。
逓増定期保険は、一定期間後に解約返戻金が高まる設計になっているため、社長の退職タイミングに合わせて解約し、その返戻金を退職金に充てるという使い方ができます。
一方で短期払い終身保険は、保険期間が一生涯続くため、長期的な資産として機能します。法人が保有し続けることで、万が一の死亡保険金を退職金代わりに受け取る設計も可能です。
つまり、2種類の保険を組み合わせることで、「今期の損金最大化」と「将来の退職金準備」を一石二鳥で実現できる構造が作れるのです。
注意してほしい3つのポイント
組み合わせ設計には魅力がありますが、闇雲に複数加入すればいいわけではありません。実際に設計を検討するうえで、必ず意識してほしいことがあります。
ひとつ目は、法人の資金繰りとのバランスです。保険料は毎年確実に出ていくキャッシュです。利益が出ているときはよくても、業績が落ちたときに払い続けられるか、冷静に判断する必要があります。
ふたつ目は、解約のタイミング設計です。返戻率がピークになる時期と、社長の退職予定時期をしっかり合わせておかないと、思ったような退職金が受け取れないことがあります。
みっつ目は、2019年以降の税制改正の影響です。国税庁の通達改正により、以前と比べて損金算入ルールが変わっています。古い情報をそのまま使うのは危険で、最新の設計で考えることが大前提です。
「保険は1本で十分」という思い込みが一番もったいない
冒頭の建設会社の社長には、その後すぐに税理士と保険設計の専門家を交えた三者面談を設定しました。結果として、既存の逓増定期保険はそのままに、短期払い終身保険を追加することで、年間の実質的な税負担を大きく抑える設計に組み直すことができました。
大切なのは、「保険は種類の組み合わせで効果が変わる」という視点を持つことです。この視点があるかないかで、数年後の手元に残るお金が大きく変わってきます。
もし今、法人保険を1本しか持っていないなら、一度現状の設計を専門家に見直してもらうことを強くお勧めします。特に今期の利益がある程度見えてきているなら、早めに動くほど効果が出やすいタイミングです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。