先日、資産規模10億円超のオーナー社長からこんな相談を受けました。「昔、海外不動産で節税できるって聞いたけど、あれもう使えないんですよね?」——この質問、最近ほんとうによく聞きます。
結論から言うと、旧来の手法はほぼ封じられましたが、完全に終わったわけではありません。 ただし「昔聞いた話」のまま動こうとすると、思わぬ税負担を招く可能性があります。まずは何が変わったのかを整理しておきましょう。
2020年以前、何がそんなにお得だったのか
改正前の海外不動産投資の節税スキームは、とにかくシンプルかつ強力でした。たとえば米国の木造物件を購入すると、日本の税法上の耐用年数がわずか4年に設定されます。
仮に3億円の物件を買えば、毎年7,500万円もの減価償却費を計上できる計算です。そしてこの「帳簿上の損失」を国内の事業所得や給与所得と損益通算できたため、数億円規模の課税を数年間にわたって繰り延べることが可能でした。
実際にキャッシュは出ていないのに、税金だけが劇的に減る。それが当時の海外不動産節税の本質でした。高所得の医師や上場企業オーナーの間で爆発的に普及したのも、当然といえば当然です。
2020年改正で何が変わったか
2020年度の税制改正により、個人が保有する海外不動産から生じた赤字は、原則として国内所得との損益通算ができなくなりました。
厳密に言えば、海外不動産所得内での内部通算は認められています。しかし、それ以外の所得(事業所得・給与所得など)との相殺ができなくなった時点で、旧来のスキームの「旨味」はほぼ消えたと見ていいでしょう。
数億円の物件を購入して多額の減価償却費を計上しても、その損失を国内の高い税率がかかる所得に充てられない。これでは「節税のために不動産を買う」という動機そのものが成立しません。
改正を知らずに旧スキームのつもりで物件を購入してしまったケースも、実際にはあったと聞いています。2020年以降に海外不動産を個人で取得した場合は、まず自分がどのルールの下にいるかを税理士と確認することが最優先です。
それでも節税余地は残っている
「じゃあもう海外不動産は意味ないの?」と言われると、そうではありません。現行ルールの枠内でも、設計次第で節税効果を出す余地は確かに残っています。
よく使われるアプローチのひとつが法人スキームです。海外不動産を個人ではなく法人で保有する形にすることで、減価償却による損失を法人内の他の利益と相殺できる可能性があります。国内事業の利益が潤沢に出ている法人オーナーであれば、検討に値する選択肢です。
また、持株会社や中間法人を組み合わせた構造によって、課税タイミングや税率の最適化を図るアプローチもあります。さらに海外に現地法人を設立し、その法人が不動産を保有するスキームも存在します。ただしこちらはタックスヘイブン対策税制(CFC税制)との兼ね合いが複雑で、設計を誤ると逆効果になるリスクもあります。
いずれにしても、これらの手法は一般論として「使える」と言えても、実際の効果はオーナーの所得構造・保有資産・事業形態によって大きく変わります。
「昔聞いた節税話」で動くのが一番危ない
節税の世界では、情報の鮮度が命です。2019年以前に聞いた海外不動産の話をそのまま今の判断基準にしていると、改正後のルールに気づかないまま動いてしまうリスクがあります。
とくに注意が必要なのは、「節税になると聞いた」という理由だけで物件を購入することです。不動産は購入後に「やっぱりやめます」とはいきません。税制が変わっても物件は残ります。
海外不動産を使った節税を検討するなら、必ず国際税務に強い税理士に相談することをおすすめします。「海外不動産に詳しい」だけでなく、CFC税制・移転価格税制・租税条約などを横断的に理解している専門家を選ぶのがポイントです。
改正で完全に終わったわけではないからこそ、中途半端な知識で動くのではなく、今の自分の状況に合った設計を専門家と一緒に考える。それが2025年時点での正しい海外不動産との向き合い方だと思います。
もし「海外不動産を使った節税、うちの場合はどうなの?」と気になっているなら、まずは顧問税理士に「2020年改正後の取り扱いはどうなりますか?」と一度聞いてみてください。その返答のクオリティが、担当税理士の国際税務リテラシーを測るいい機会にもなります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。