先日、年商3億円ほどの建設会社を経営する社長と話していたとき、こんなことをさらっとおっしゃっていました。
「役員賠償保険? ああ、個人で入ってますよ。毎年100万円くらい払ってます」
思わず手が止まりました。その一言で、毎年30万円以上が消えていることに気づいていないのだと直感したからです。
「個人払い」か「法人払い」か、それだけで手残りが変わる
D&O保険(Directors and Officers Liability Insurance)、日本語では役員賠償責任保険と呼ばれるこの保険、会社の規模が大きくなるにつれて加入する社長が増えています。
株主代表訴訟や第三者からの損害賠償請求など、経営判断に起因するリスクをカバーするための保険ですから、一定規模の会社の経営者にとっては「あって当たり前」の存在になってきました。
ところが問題は、誰が契約者になって、どこから保険料を払うか、です。
個人で契約して個人口座から払っている社長は、税引き後の手取りから保険料を出していることになります。一方、法人が契約者となり会社口座から保険料を払えば、その保険料は原則として全額損金に算入できます。同じ保険、同じ保障内容なのに、扱い一つで「税金を払った後のお金」か「税引き前のお金」かが変わってくる。これが大きな差を生みます。
数字で見ると、その差は一目瞭然
法人税率を約30%として計算してみましょう。年間保険料が100万円の場合、法人経費にできれば約30万円の節税効果があります。保険料100万円に対して、実質的な手出しは70万円で済む計算です。
個人払いなら、役員報酬として受け取った給与から所得税・住民税を引いた手取りで100万円を払うことになります。所得税率が33%のゾーンにいる社長なら、100万円の手取りを作るためにそもそも150万円以上の報酬が必要です。
つまり同じ保障を得るために、法人払いなら実質70万円、個人払いなら実質150万円以上かかっている、という逆転現象が起きうるわけです。
会社の規模が大きくなると、この差はさらに広がります。年商10億円を超えるような会社では、D&O保険の年間保険料が500万円を超えることも珍しくありません。その場合、法人経費化できれば節税インパクトは150万円以上になります。
法人契約に切り替えるための基本ポイント
法人がD&O保険を損金算入するための基本的な考え方は、シンプルです。会社が契約者となり、被保険者を役員とすること。この形であれば、保険料は原則として全額損金として処理できます。
ただし、いくつか確認しておきたい点があります。
まず、保険の目的が「会社の事業に関連したリスクのカバー」であること。個人的な利益のための保険ではなく、あくまで経営判断に伴うリスクへの備えである点が、損金性の根拠になっています。
次に、契約形態によっては税務上の取り扱いが変わることもあります。保険の中に積立要素が含まれているケースや、特約の内容によっては、全額損金にならないこともあります。
そして実務上の注意点として、既存の個人契約を解約して法人契約に切り替える際には、保障の空白期間ができないよう段取りを組む必要があります。解約・新規加入のタイミングは保険担当者と丁寧に調整しておきましょう。
「知っているか知らないか」の差が、キャッシュの差になる
節税の世界では、複雑な仕組みを使わなくても、「同じものをどう扱うか」を知っているだけで結果が変わることがよくあります。D&O保険の法人経費化はまさにその典型です。
特別なスキームでも節税商品でもありません。契約者を法人にするというだけの話です。それなのに、知らないまま個人払いを続けている社長が今もたくさんいます。
もし今、役員賠償保険を個人で払っているなら、一度契約内容を確認してみてください。年間保険料と、その保険を誰が契約しているか。それだけで、今期の税負担が変わる可能性があります。
顧問税理士に「うちのD&O保険、法人経費にできますか?」と一声かけてみるだけでいい。それだけで年間30万円、場合によっては100万円以上の差が生まれるなら、確認しない理由はないはずです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。