先日、売上10億円規模の建設会社を経営するオーナー社長から、こんな相談を受けました。

「2019年に保険の改正があってから、法人保険の節税は全部終わったって顧問税理士に言われたんですが、本当ですか?」

この誤解、実はとても多いんです。改正によって一部のスキームが封じられたのは事実ですが、「法人保険での節税が完全に使えなくなった」というのは少し正確ではありません。今回は、改正後も合法的に使えるスキームと、賢い出口設計のポイントをお話しします。

改正で何が変わったのか、正確に知っておく

2019年の改正で変わったのは、解約返戻率が高い貯蓄性の強い保険に対する損金算入ルールです。具体的には、解約返戻率が85%を超えるような「ほぼ全額戻ってくる」タイプの保険については、損金に算入できる割合が大幅に制限されました。

ただし、解約返戻率が50%以下の保険については、保険料の全額を損金として計上することが今でも認められています。ここがポイントです。

年間5000万円の保険料で、何が起きるか

仮に年間5000万円の保険料を支払う契約を組んだとします。法人税率を30%とすると、毎年1500万円の税負担を先送りにできる計算になります。

「先送りって、結局は払うんじゃないの?」と思う方もいるかもしれません。確かにその通りです。ただ、節税の本質は「いつ課税されるか」のタイミングをコントロールすることにあります。手元にキャッシュが残る時間が長ければ、その分だけ事業への再投資や運転資金の確保に使えます。そして最大の妙味は、解約のタイミングを「退職金の支払い時」に合わせることにあります。

退職金との組み合わせが、本当のゴール

社長が退職するタイミングで保険を解約し、その解約返戻金を原資として退職金を支払う。これが法人保険活用の真骨頂です。

退職金には「退職所得控除」という強力な特典があります。勤続年数20年超の場合、1年あたり70万円の控除が適用されます。たとえば在任40年であれば、800万円+70万円×(40年-20年)=2200万円超の控除が受けられます。さらに、退職所得は控除後の金額を2分の1にしてから課税される仕組みになっているため、給与や賞与と比べて圧倒的に税負担が軽くなります。

法人側では損金として計上してきた保険料が、個人の手元に退職金として渡る時点では大幅に課税を圧縮できる。この「法人と個人の税率差」を活かすことが、このスキームの核心です。設計の巧拙によって、最終的な手取りが数千万円単位で変わることも珍しくありません。

「出口」を先に決めるのが鉄則

このスキームで失敗するパターンは、ほぼ共通しています。「とりあえず節税になると聞いたので加入した」という、入口だけ決めて出口を考えていないケースです。

大切なのは、次の3点を先に明確にしておくことです。

  • いつ解約・退職するのか(タイミング)
  • 誰が受け取るのか(後継者への事業承継とのタイミング調整も含む)
  • いくらを退職金として渡すのか(功績倍率ルールの範囲内であること)

この出口設計なしに保険だけ組んでしまうと、解約時に想定外の利益が法人に発生して大きな課税が生じたり、退職金が「過大」と税務署に指摘されるリスクも出てきます。

3億円の節税は、絵空事ではない

年間5000万円の保険料、法人税率30%、運用期間20年という条件でざっくり計算すると、累計で3億円の税負担を退職金支払い時まで後ろ倒しにできます。そして退職所得控除と2分の1課税の効果で、最終的に個人が負担する税額は大幅に圧縮されます。

もちろん、これはあくまで試算です。実際の効果は会社の規模、社長の在任年数、その時々の税制によって変わります。「3億」という数字だけを見て飛びつくのではなく、自社のキャッシュフローや事業承継の時期と照らし合わせて判断することが重要です。

今すぐ確認してほしいこと

もしあなたが「2019年の改正で法人保険はもう使えない」と思って検討すら止めていたなら、一度見直す価値はあります。特に、退職まであと10〜20年あるオーナー社長にとっては、まだ十分に活用できる時間的な余裕があります。

まず顧問税理士に「解約返戻率50%以下の保険を使った退職金設計を検討したい」と相談してみてください。そこから出口を逆算した設計ができれば、節税と資産形成を同時に進める有力な手段になります。入口より出口。この順番だけは忘れないでください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。