先日、都内で不動産業を営む社長からこんな連絡が来ました。「海外の口座に資産を置いているんですが、何か申告が必要なんでしたっけ?」と。話を聞いてみると、すでに数年分の調書を未提出のまま放置していました。知らなかったとはいえ、これはかなりリスクの高い状態です。

海外に資産を持つ経営者が増えている一方で、「調書の提出義務がある」という事実を知らない方は、実はまだかなり多いです。今回はそのリスクについて、具体的な数字を交えながら整理していきます。

まず知っておきたい「2つの調書」

日本には、一定以上の資産を持つ人に申告を義務づける制度として、大きく2つの調書があります。ひとつは「国外財産調書」、もうひとつは「財産債務調書」です。名前が似ていて混乱しがちですが、対象者と提出基準が異なるので、しっかり区別しておく必要があります。

まず「国外財産調書」は、海外に5,000万円を超える財産を持つ人が対象です。海外の銀行口座、不動産、有価証券、保険など、日本国外にある財産の合計額が年末時点で5,000万円を超えていれば、翌年6月末までに税務署への提出が義務となります。

一方の「財産債務調書」は、国内外を問わず総資産が3億円超、または有価証券が1億円超の場合に提出が必要です。こちらは所得税の確定申告と同時期、翌年3月15日が提出期限になります。海外資産がなくても、国内だけで条件を満たすケースがある点は見落とされがちです。

「知らなかった」では通らないペナルティ

この2つの調書には、未提出や記載漏れに対して明確なペナルティが設けられています。国外財産調書の場合、未提出または過少記載があると、関連する所得税・相続税の申告において過少申告加算税や無申告加算税が5%上乗せされます。逆に、調書を正しく提出していれば5%の軽減措置が受けられるという仕組みでもあります。

財産債務調書についても同様で、未提出の場合は加算税が加重されます。数千万円規模の申告漏れが絡んでくると、この5%という数字は決して小さくありません。数百万円単位の追徴が現実的に発生しうるのです。

さらに見逃せないのが、税務調査との連動です。国税庁はCRS(共通報告基準)を通じて、外国の金融機関から日本居住者の口座情報を自動的に受け取っています。つまり「海外の口座なんてバレない」という認識は、すでに過去のものです。

実際に対象になりやすいケースはどんな人か

以下のような状況に心当たりがあれば、今すぐ確認が必要です。

  • シンガポールや香港に法人や口座を持っている
  • 海外の不動産を購入して賃料収入を得ている
  • 外国株やETFを海外証券口座で運用している
  • 資産管理の名目で海外に資金を移している

「節税のために海外スキームを使っている」という経営者ほど、資産規模が調書の提出基準を超えているケースが多いです。スキームの活用と調書の提出は、セットで考えなければなりません。

調書の提出は「攻め」にもなる

調書の提出義務は、一見するとリスク管理の話に聞こえますが、見方を変えると正しく申告している経営者を守る制度でもあります。ちゃんと調書を出しておくことで、税務調査が入ったときに加算税が軽減される恩恵を受けられます。

つまり、提出義務を履行することは「守り」であると同時に、調査リスクを下げるという意味での「攻め」でもあるんです。適法な海外スキームを使っているなら、なおさら調書をきちんと出して、胸を張っていられる状態にしておくべきでしょう。

今からでも遅くない。まず状況を整理することから

「うちは対象かどうかわからない」という方こそ、早めに動いてほしいです。国外財産調書も財産債務調書も、毎年の手続きですから、まず今年の年末時点での資産状況を把握することが第一歩になります。

特に、過去に未提出の年度がある場合は、自主的に修正や期限後申告を行うことで、ペナルティを最小限に抑えられる可能性があります。問題を先送りにするほど状況は悪化しますので、心当たりのある方は国際税務に詳しい税理士に相談することを強くおすすめします。

海外に資産を持つこと自体は何ら問題ありません。ただ、その資産をきちんと「見える化」して申告することが、長期的な資産防衛の大前提です。調書の提出を、今期の重要なTo Doリストに加えておいてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。