先日、年商10億円規模の不動産オーナー社長からこんな相談を受けました。
「株も不動産も、ずっと個人名義で持ってきたんだけど、このまま持ち続けていいのかな」
話を聞いていくと、含み益だけで数億円。売ろうにも税金が怖くて売れない、かといって子どもに残そうとすると相続税が重くのしかかる。気づけば「どこに逃げても課税される」状態になっていました。
これ、決して他人事ではありません。個人で資産を持ち続けることのリスク、今日はそこから話を始めましょう。
個人で資産を持つと、税率が積み上がっていく
個人で株や不動産を売却した場合、利益には約20%の税金がかかります。1億円の売却益が出れば、約2,000万円が税金として消えていく計算です。
そしてもっと深刻なのが相続のタイミングです。資産規模が大きくなるほど相続税率は上がり、最高税率は55%に達します。つまり、頑張って築いた財産の半分以上が、次の世代に渡る前に消えてしまう可能性がある。
個人で持つことの問題は、この「売るときも」「残すときも」課税されるという二重の重さにあります。多くの社長はこの構造に気づかないまま、何十年も資産を個人名義で積み上げてしまっています。
「知っている社長」がやっていること
では、税務に精通した経営者はどうしているのか。答えはシンプルで、資産を「プライベートカンパニー(資産管理会社)」に移しているのです。
資産管理会社とは、事業会社とは別に設立する、純粋に資産の保有・運用を目的とした法人のことです。自分や家族が株主となり、株式・不動産・保険などの資産をその会社で保有・運用します。
なぜこれが有利なのか。一番大きいのは税率の違いです。個人の総合課税では最高55%(所得税+住民税)に達することもありますが、法人税の実効税率は中小法人でおおよそ23%前後に収まります。同じ利益でも、法人で受け取るか個人で受け取るかで、手元に残る金額が大きく変わるのです。
複利の力を最大化できる仕組み
さらに重要なのが、含み益を非課税のまま再投資できるという点です。
個人で資産運用をすると、利益が出るたびに課税が発生し、その分を差し引いた残りで次の投資をすることになります。一方、法人内で資産を運用する場合、売却益を内部留保としてそのまま次の投資に回すことが可能です。課税前の元本を丸ごと再投資できるため、長期的に見ると複利効果の差は非常に大きくなります。
10年・20年という時間軸で考えると、この差は億単位になることも珍しくありません。
配当を使えば、グループ内でほぼ非課税で動かせる
法人税務で特に知っておきたいのが、**「受取配当等の益金不算入」**という制度です。
簡単に言うと、ある会社から受け取った配当金は、一定の条件を満たせば法人の課税所得に算入しなくていい、つまり非課税に近い扱いにできる制度です。
事業会社でしっかり稼いだ利益を配当として資産管理会社に移す。そのお金でさらに株式や不動産を購入し、また配当を得る。このサイクルを回すことで、グループ全体で税負担を抑えながら資産を育てていくことが可能になります。
相続対策にも直結する
プライベートカンパニーの活用は、相続対策としても非常に有効です。
資産管理会社の株式を、子どもや配偶者に少しずつ贈与していくことで、将来の相続財産を圧縮できます。また、役員報酬という形で家族に所得を分散させることで、個人レベルの課税を下げながら生前贈与の効果も得られます。
「会社の株を子どもに移す」という行為は、不動産や現金をそのまま渡すよりも評価額の計算上有利になるケースも多く、設計次第で大きな節税効果が生まれます。ここは税理士との綿密な設計が欠かせないポイントです。
注意点:設立すれば終わりではない
一方で、資産管理会社の活用にはいくつか気をつけるべき点があります。
まず、会社を設立すること自体にコストがかかります。登記費用・税務申告費用・社会保険料など、年間で数十万円のランニングコストが発生します。資産規模が小さい段階では、費用対効果が合わないこともあります。
また、個人から法人に資産を移す際には、時価での「売買」とみなされ、その時点で課税が発生するケースがあります。タイミングと方法を間違えると、節税どころか余計な税コストが発生しますので、設計段階から専門家に相談することが必須です。
プライベートカンパニーの活用は、年間で数百万〜数千万円、規模によっては億単位の差を生む可能性のある、非常に強力な税務戦略です。ただし、設計を誤ると逆効果にもなりかねません。
もし今、資産のほとんどを個人名義で持っているなら、まずは顧問税理士に「資産管理会社を使った設計を一度整理してほしい」と投げかけてみてください。その一言が、数十年後の資産規模を大きく左右するかもしれません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。