先日、ある社長からこんな相談を受けました。

「3年前に相続対策でタワマンを買ったんですが、今も同じように使えますよね?」

その言葉を聞いて、少し心配になりました。2024年1月に、タワマン節税のルールは大きく変わっています。古い感覚のまま進めると、思わぬ落とし穴にはまる可能性があるからです。

旧ルールで動いていた社長に起きたこと

2024年以前、タワマン節税が人気を集めた理由はシンプルでした。実勢価格(市場で売買される価格)と相続税評価額の間に、大きなギャップが存在していたからです。

たとえば、実勢価格3億円のタワーマンションであっても、相続税評価額が5,000万円程度に抑えられるケースがありました。現金3億円をそのまま相続するのと比べれば、圧縮効果は一目瞭然です。

ところが、この手法は税務署も黙って見ていませんでした。「実態と乖離しすぎている」と判断されると、いわゆる「総則6項」という規定を使って否認されるリスクがあったのです。実際に追徴課税が数千万円に上った事例も複数報告されています。

そしてついに、2024年1月から新しい評価ルールが導入されました。

2024年改正で何が変わったのか

改正の核心は「評価額の下限設定」です。

新ルールでは、タワーマンションの相続税評価額は市場価格の60%を下回ることができないという基準が設けられました。つまり、実勢価格3億円のタワマンであれば、最低でも1億8,000万円が評価額になるということです。

以前のように「3億円の物件を5,000万円で申告」というような極端な圧縮は、もはや通用しません。

ただし、ここで誤解してほしくないのですが、「節税効果がゼロになった」わけではありません。

同じ3億円を現金で保有した場合と比較すると、1億8,000万円の評価額であれば約1億2,000万円の圧縮になります。相続税率を30〜40%と仮定すれば、それでも3,600万〜4,800万円程度の節税効果が残る計算です。「旨みが減った」のは事実ですが、「旨みがなくなった」とは言い切れないのです。

それでも「タワマンさえ買えばいい」は危険な発想

問題は、改正後もなお「タワマンを買えば節税になる」という感覚だけで動いてしまう社長が一定数いることです。

評価額の下限が設定されたとはいえ、取得価格・立地・築年数・ローンの有無など、個別の条件によって効果は大きく変わります。また、「節税のためだけに買った」という実態が透けて見えると、新ルールのもとでも否認リスクがゼロではありません。

不動産はそもそも流動性が低い資産です。「節税になるから」という理由だけで3億円の物件を購入し、いざ売却しようとしたら思ったより値段がつかなかった、という話は珍しくありません。節税効果と出口戦略をセットで考えることが、今後はより一層重要になります。

次の一手として注目されているスキーム

2024年以降、タワマン一辺倒だった不動産節税の世界では、新しい手法への関心が高まっています。

ひとつは、不動産SPCを活用した収益物件スキームです。特別目的会社(SPC)を通じて収益不動産を保有することで、相続財産の評価を下げながら賃料収入も確保する仕組みです。スキームの組成には専門的な知識が必要ですが、資産規模の大きい経営者層を中心に活用が進んでいます。

もうひとつは、法人所有スキームに減価償却を組み込む手法です。法人で不動産を取得し、減価償却費を計上することで法人税の圧縮を図りながら、資産承継にも活用するアプローチです。個人の相続税対策と法人の税負担軽減を同時に設計できる点が魅力です。

どちらのスキームも、「こういう方法がある」という知識だけで動き出すのは危険です。物件の選定・法人の設計・出口戦略まで、税理士や不動産の専門家と一緒に設計することが前提になります。

今、動くべきかどうかの判断軸

相続対策を検討している社長に、ひとつだけ確認してほしいことがあります。

「その購入、節税以外の理由で説明できますか?」

賃料収入を得たい、将来子どもに使わせたい、自分も住む可能性がある——そういった事業・生活上の合理性があれば、不動産は依然として有力な相続対策のひとつです。しかし「とにかく節税になると聞いたから」という動機だけでは、今の税務環境では通用しなくなってきています。

2024年の改正を機に、不動産節税の設計を一度見直してみることをおすすめします。顧問税理士に「今の保有不動産の評価はどうなっていますか?」と聞いてみるだけでも、現状把握の第一歩になるはずです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。