先日、資産管理会社への不動産移転を検討している社長から、こんな相談を受けました。
「帳簿価格は1億円なのに、時価が4億円まで上がっちゃって。持株会社に移そうとしたら、税理士に『3億円に課税されますよ』って言われて止まってるんです」
この悩み、実はよく聞きます。含み益が大きくなればなるほど、動かしたくても動かせない——そんな状態に陥っている社長は少なくありません。
ただ、知っておいてほしいことがあります。グループ内の不動産移転なら、課税を将来に繰り延べる仕組みが税法上用意されているのです。
通常の移転だと9,000万円が吹き飛ぶ
通常、法人が不動産を別の会社へ売却すると、売却益に対して法人税が課税されます。
先ほどの例で計算してみましょう。帳簿価格1億円の不動産を時価4億円で持株会社に売った場合、差額の3億円が売却益になります。法人税率を約30%とすると、約9,000万円の税負担が生じます。
「グループ内の取引なのに、なぜそんなに払わないといけないのか」——そう感じるのは当然です。実際、税務上も同じ感覚から設けられたのが「グループ法人税制」です。
グループ法人税制で課税が「将来送り」になる
グループ法人税制とは、100%の資本関係にあるグループ企業間の取引に適用される特別ルールです。
この制度の核心は、グループ内で資産を移転しても、外部に売却するまで含み益への課税が発生しないという点にあります。
先ほどの例でいえば、持株会社が将来その不動産を第三者に売却したタイミングで初めて課税が確定します。移転した時点では9,000万円の税金は発生しません。
キャッシュフロー的に見ると、この差は非常に大きいです。今すぐ9,000万円を納税するのと、5年後・10年後に納めるのでは、手元に残る資金の使い方がまったく変わってきます。
ただし、適用条件は厳しい
この制度、誰でも使えるわけではありません。最大の条件は「100%グループ内の取引であること」です。
親会社が子会社の株式を100%保有している場合は対象になりますが、たとえば80%保有の子会社間の取引は対象外です。グループ再編の前後を含め、持分関係を正確に確認しておく必要があります。
また、適用を受けた資産には「譲渡損益調整資産」というタグが付き、グループ外に出たときに過去の含み益が一気に実現します。このタイミングの管理を怠ると、予期せぬ課税が発生することもあります。
M&Aや事業承継と組み合わせるときは特に注意
グループ内で不動産を移転すると、移転先の会社の純資産が変わります。当然、株式の評価額にも影響が出ます。
事業承継やM&Aを前提にグループ再編を進める場合、この点が特に重要です。たとえば、含み益を持株会社に集中させたことで株価が想定以上に上がり、相続税や株式売却時の税負担が増えてしまった——というケースは実際に起きています。
含み益の移転は「課税の先送り」ではありますが、先送りした課税がどのタイミングで誰に降りかかるかを事前にシミュレーションしておくことが欠かせません。
事前設計なしに動いてはいけない
グループ法人税制は確かに強力な手法ですが、移転のタイミング・グループ構造・出口戦略の三点が整合していないと、逆に損をする場面もあります。
「とりあえず持株会社に移しておけばいい」という発想で動くと、後から取り返しのつかない課税リスクが発生することがあります。
含み益が大きい不動産を保有している社長は、まず現在のグループ構造と出口戦略を整理した上で、この制度の活用可能性を税理士と検討してみてください。特に事業承継やM&Aを3〜5年以内に考えているなら、今が動き時です。動かした後では選択肢が大幅に狭まります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。