先日、年商10億円を超えるある製造業の社長から、こんな相談を受けました。「毎年、法人税をけっこう払っているんだけど、もっと減らす方法ってないのかな」と。
その社長、複数の事業を抱えているにもかかわらず、すべて1つの法人でまとめて申告していました。じつは、ここに大きな見直しの余地がありました。「持株会社」を使った節税スキームです。
配当を受け取っても、課税されない
持株会社(ホールディングス)を設立して、事業会社を100%子会社として傘下に収めると、ある強力なメリットが生まれます。
子会社が稼いだ利益を配当として持株会社に渡しても、持株会社側ではその配当が原則として課税されないのです。「受取配当等の益金不算入」という制度がそれです。
通常、事業会社が利益を出せば法人税がかかります。しかし、その税引後利益を配当として持株会社に移しても、持株会社では再び課税されない。グループ内でお金を動かす上で、非常に強力な仕組みです。
複数の子会社に分ければ、低税率の枠を何度でも使える
次に見逃せないのが「所得の分散」です。
法人税の実効税率は、年間所得800万円以下の部分に対して約22%と低く抑えられています。ところが800万円を超えると、一気に約34%まで跳ね上がります。
1社だけで年間所得5,000万円を稼ぐと、ほとんどが高税率ゾーンに突入します。しかし事業を複数の子会社に分散させれば、各社が800万円の低税率枠をそれぞれ活用できます。
不動産・コンサルティング・EC事業を3社に分けた場合、合計2,400万円分が約22%の税率で済む計算になります。同じ売上でも、設計次第で税負担がまるで変わってくるのです。
赤字と黒字を、グループでまとめて相殺する
さらに使えるのが「グループ通算制度」です。グループ内の黒字会社と赤字会社の損益を通算し、グループ全体の課税所得をまとめて計算できます。
ある子会社が新規事業の立ち上げ期に500万円の赤字を出していても、別の子会社の黒字と相殺して税負担を減らせます。リスクを抑えながら新規事業に挑戦しやすくなる、という副次的なメリットもあります。
3つを組み合わせると、実効税率は大きく変わる
整理すると、持株会社スキームの節税効果は3つのレイヤーから生まれます。
- 受取配当の益金不算入:子会社からの配当を持株会社で非課税受取
- 所得の分散:複数子会社がそれぞれ低税率枠(年800万円・約22%)を活用
- グループ通算:黒字・赤字の相殺でグループ全体の課税所得を圧縮
この3つをうまく設計できると、グループ全体の実効税率が劇的に下がるケースがあります。「50%削減」という数字も、条件が揃えば現実的な話です。
制度を使う上での注意点
ただし、持株会社スキームには税務上のリスクも伴います。グループ会社間の取引は「移転価格ルール」の対象です。恣意的に利益を移転しているとみなされると、税務調査で否認されるリスクがあります。取引価格は第三者との取引と同水準である必要があります。
また、持株会社の設立・維持にはコストもかかります。登記費用、税務申告の複雑化、場合によっては社会保険料の変動も考慮が必要です。「形式だけの分割」では効果が出ないどころか否認リスクが高まります。各子会社がそれぞれ実態ある事業を運営していることが、スキームを成立させる前提条件です。
年商5〜10億が、設計を始めるひとつの目安
年商が5〜10億円を超えてきた段階で、持株会社スキームを検討する価値が出てきます。それ以下の規模だと、設立・管理コストに対して節税効果が見合わないケースも少なくないからです。
複数の事業を手がけていたり、将来的に事業売却や承継を考えているなら、早めの検討をおすすめします。持株会社は事業承継対策としても有効で、株式の集約・移転がしやすくなるというメリットもあります。
今期の決算が終わったら、顧問の税理士に「持株会社の設計について相談したい」と一度切り出してみてください。グループ全体の税負担を根本から見直すきっかけになるはずです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。