先日、同じ業種・同じ規模で会社を経営する2人の社長と話す機会がありました。年商も利益もほぼ同じ。でも10年後の「手残り」が3億円以上違うかもしれないと聞いて、一人の社長は思わず絶句していました。
その違いは、持株会社を持っているかどうか、ただそれだけでした。
年1.5億円稼いでも、手元に残るのは半分以下
会社の利益が年間1.5億円あるとします。その利益を役員報酬として全額個人で受け取った場合、所得税と住民税を合わせた税率は最大55%に達します。
1.5億円稼いでも手元に残るのは6,750万円。約7,500万円が税金として消えていく計算です。
毎年7,500万円。10年続ければ7.5億円。これが「何も対策をしなかった場合」の現実です。
持株会社を挟むと何が変わるのか
持株会社(ホールディングス)とは、事業会社の株を保有する会社のことです。事業会社の利益を持株会社に配当として移すことで、法人税率(実効税率33%前後)での課税に留めることができます。
個人で受け取れば最大55%。持株会社経由なら法人税率。その差は20%以上になるケースがほとんどです。
年1.5億円の利益で計算すると、この税率差が年間3,000万円前後の節税効果として現れます。10年間積み上げれば、まさに3億円という数字になるわけです。
持株会社に残った資金はそのまま次の投資に回すことができます。不動産、株式、M&A…社長が判断した用途に再投資できる手元キャッシュが大きく増える。これが持株会社の本質的なメリットです。
退職金を「二重に」受け取る設計
持株会社の節税効果はそれだけではありません。退職金の設計でも大きな差が出ます。
通常、退職金は事業会社から受け取ります。でも持株会社を持っていると、事業会社と持株会社の2社それぞれから退職金を受け取ることが可能になります。
退職金には「退職所得控除」という非常に強力な控除があります。勤続年数が長いほど控除額が大きくなり、さらに残った退職所得は2分の1課税になるため、同じ金額でも役員報酬と比べて税負担が圧倒的に低い。これを2社分活用できるのは、長期的な出口戦略を考えるうえで非常に重要なポイントです。
役員報酬の「分散」で累進課税を抑える
日本の所得税は累進課税です。所得が高くなるほど税率が上がり、年収4,000万円を超えると税率は45%(住民税含め55%)に達します。
持株会社を活用すると、社長一人に集中していた報酬を分散する設計が可能になります。たとえば配偶者や成人したお子さんを持株会社の役員にして、適切な役員報酬を支払うことで、各自の所得を低い税率に抑えることができます。
一人が4,000万円を受け取るより、二人が2,000万円ずつ受け取るほうがトータルの税負担は大きく下がる。これが「所得の分散」という考え方です。
やらない理由がない、でも注意点もある
ここまで読むと「すぐ作ろう」と思うかもしれません。ただ、いくつか押さえておきたい注意点があります。
持株会社の設立・維持にはコストがかかります。法人2社分の税務申告費用、登記費用、毎年の法人住民税の均等割など、ランニングコストは年間数十万円規模になることもあります。
また、資金移動の設計を誤ると税務調査で否認されるリスクもゼロではありません。「作ればいい」ではなく「正しく設計して運用する」が大前提です。
設立のタイミングも重要で、利益が安定して出るフェーズで、かつ出口(事業承継・売却など)を見据えた設計が必要になります。
利益が年間5,000万円を超えたら、一度試算を
持株会社は「大企業がやるもの」というイメージを持っている社長も多いですが、年商1〜5億円クラスの中小企業でも十分に活用できるスキームです。
利益が年間5,000万円を超えてきたあたりから、検討の価値が出てくることが多いです。設立・維持コストを上回る節税効果が期待できるラインが、そのあたりになるからです。
まだ持株会社を持っていないなら、一度「自社の数字に当てはめるとどうなるか」を顧問税理士と試算してみてください。計算してみると、思っていた以上に大きな差が出ることに気づくはずです。10年後に絶句しないためにも、動くなら早いほど有利です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。