先日、年商8億の建設業の社長からこんな相談を受けました。「引退を考えていて、退職金を5,000万円用意しているんですが、手元にいくら残りますか?」と。

計算してみると、受け取り方次第で手取りが1,000万円以上変わることが判明しました。その社長は「そんなに差が出るとは思っていなかった」と目を丸くしていました。

退職金の受け取り設計は、経営者人生の中でも最大級の節税機会です。今日はその仕組みを、具体的な数字とともにお伝えします。

退職金に与えられた「2段階の優遇」

給与や賞与と比べて、退職金には圧倒的に有利な税制が設けられています。その柱が「退職所得控除」と「1/2課税」の2つです。

まず退職所得控除。勤続20年以下なら1年につき40万円、20年超は1年につき70万円が控除されます。たとえば勤続30年の社長なら、「800万円 + 70万円 × 10年」で1,500万円が丸ごと非課税になります。

さらに控除後の残額は、2分の1にしてから税率を適用します。この「1/2課税」が、退職金を圧倒的に有利にしている最大の仕掛けです。給与と同じ金額でも、課税される所得が半分になるため、適用される税率自体が大幅に下がるのです。

給与で5,000万円受け取ると、半分以上が消える

具体的な数字で比べてみましょう。法人の社長が5,000万円を「役員報酬」として受け取った場合、高額所得者に適用される最高税率は所得税45%+住民税10%で合計55%です。

実質的な税負担は2,000万円を超えます。手取りは3,000万円を切る計算になります。

一方、同じ5,000万円を「退職金」として受け取ると話は一変します。勤続30年なら1,500万円が控除され、課税対象は3,500万円。それをさらに1/2にした1,750万円が実際の課税所得です。税率もそれに応じて下がるため、実質的な税負担は20%以下になることも珍しくありません。

5,000万円に対して、給与なら2,000万円超が税金に消え、退職金なら1,000万円以下に収まる。その差は1,000万円以上。これが「退職金の受け取り方次第で課税が半分になる」と言われる理由です。

法人の投資信託積立を退職金の原資にする

ただ「退職金を増やそう」と思っても、法人にそれだけの現金が必要です。そこで活用されているのが、法人名義での投資信託の積立です。

仕組みはシンプルです。法人が毎月一定額を投資信託で運用し、その資産を社長退職時の退職金原資として充てます。利益を社内に現金のまま積み上げるのではなく、運用しながら将来の退職金に転換していくイメージです。

これにより、「役員報酬として取り出すか、会社に残すか」という二択だった選択肢に、「節税効果の高い形で個人に移転する」という第三の道が加わります。法人内に眠っていた資産が、社長の手元に最大限残る形で活用できるのです。

早く始めるほど、控除枠が大きくなる

退職所得控除は勤続年数に比例して増えていきます。つまり、同じ退職金額でも、早くからこの設計を始めた社長ほど控除枠が大きく、手残りが多くなります。

45歳で会社を設立して65歳まで経営すれば勤続20年、控除額は800万円。一方、30歳で設立して同じ65歳まで経営すれば勤続35年、控除額は1,550万円。この差が750万円です。

「退職のことはまだ先の話」と後回しにするほど、取り返せない控除額が積み上がっていきます。

設計を誤ると否認リスクがある

ひとつ重要な注意点をお伝えしておきます。退職金の節税効果は大きい分、税務調査でも注目されやすいポイントです。

退職金として適切と認められる金額には「功績倍率」などの基準があり、過大な退職金は否認されるリスクがあります。また、投資信託の運用損益が法人の決算に影響する点も考慮が必要です。

「いくら積み立てるか」「退職時期をいつにするか」「退職金の水準をどう設定するか」——この3点の設計が、節税の成否を分けます。スキーム自体はシンプルでも、個々の状況によって最適解は異なります。

退職金の設計は、経営者人生で一度きりのビッグイベントです。「そのうち考えよう」ではなく、まず現状の設計が適切かどうかを税理士に確認するところから始めてみてください。早く動くほど、選択肢は広がります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。