先日、ある社長からこんな相談を受けました。「来年、会社を息子に譲ろうと思っているんですが、退職金ってどれくらいもらえますか?」

話を聞くと、月額報酬は150万円、勤続年数は25年。計算してみると、設計次第で数千万円単位の差が出てくる状況でした。それなのに「なんとなく」で引退を決めようとしていたのです。退職金の話は「まだ先」と思っている社長ほど、引退直前に後悔するケースを何度も見てきました。

退職金が「給与」とまったく違う理由

退職所得には、他の所得にはない大きな優遇措置があります。まず「退職所得控除」という非課税枠があり、勤続年数が長いほど控除額が増えていきます。

勤続20年超の場合、控除額は「70万円×(勤続年数-20年)+800万円」で計算されます。たとえば勤続30年なら、800万円+700万円=1,500万円が非課税です。

さらに重要なのが「1/2課税」のルールです。控除後の残額をさらに2分の1にしてから税金を計算します。これが退職金の最大の武器であり、給与や賞与とはまったく別次元の節税効果を生む仕組みです。

同じ1億円でも、受け取り方で手取りが3000万円変わる

報酬月額200万円・勤続30年の社長が、1億円を受け取るケースで比べてみましょう。

給与として受け取ると、最高税率55%が適用される部分が多く、手元に残るのは5,000万円前後です。一方、退職金として受け取った場合は、まず退職所得控除(1,500万円)を差し引いた残額8,500万円の半分、4,250万円にだけ課税されます。税額は概算で1,200〜1,400万円程度。手元には8,600万円以上が残る計算です。

同じ1億円でも、受け取り方の違いだけで手取りが3,000万円以上変わることがある。これを知らずに引退するのは、文字通り「知らないだけで損をしている」状態です。

退職金の金額は「計算式」で決まる

役員退職金の適正額は、一般的に次の式で算出されます。

最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率

社長の功績倍率は2.0〜3.0倍が一般的とされています。報酬月額200万円・勤続30年・功績倍率2.5倍であれば、200万円×30年×2.5=1億5,000万円という計算になります。

ただし、この計算式はあくまで「合理的な根拠がある」と認められるための目安です。功績倍率を根拠なく高く設定したり、同業他社との比較を怠ると、税務調査で否認されるリスクがあります。金額の根拠は事前に整理しておく必要があります。

引退を「設計する」かどうかで、人生が変わる

多くの社長が見落としているのは、「退職金は引退するときに決めるもの」という思い込みです。実は、退職金を最大化するには数年前からの逆算設計が不可欠です。

勤続年数を伸ばすために引退時期を調整する、報酬月額を計画的に引き上げておく、功績倍率の合理性を書面で整理しておく——こうした準備があってこそ、制度を最大限に活かせます。直前になって「もっと早く相談しておけばよかった」という声は、毎年のように聞きます。

今すぐ確認してほしいこと

現在の報酬月額と勤続年数で、退職金がいくらになるか試算したことがない社長は、一度顧問税理士に相談してみてください。

現状の設計で受け取ると税負担はどれくらいか、今から3〜5年で何を整えておくべきか。それだけ確認するだけで、引退後の手取りが数千万円単位で変わることがあります。引退は一度しかありません。「なんとなく」で終わらせるには、あまりにも大きすぎる話です。今期のうちに、一度試算だけでもしておくことを強くおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。