先日、年商8億円の建設業の社長からこんな相談を受けました。「毎年ちゃんと役員報酬を設定しているのに、手元に残るお金がどうも少ない気がする」と。

話を聞いてみると、創業から10年以上、ずっと「定額報酬だけ」で運用していたことがわかりました。退職金の設計も、役員社宅の活用も、現物給付も何もない。率直に言って、これはかなりもったいない状況です。

定額報酬だけでは「課税効率」が悪すぎる

役員報酬にかかる所得税は、年収が高くなるほど税率が上がります。給与所得の最高税率は55%(所得税45%+住民税10%)です。月額報酬を増やすほど、手取りの増え方は鈍くなっていきます。

月150万円の役員報酬を毎年受け取ると、年収1,800万円に対して700万円前後が税金と社会保険料として消えていきます。10年続ければ、7,000万円が手元に残らない計算です。「一生懸命稼いでいるのに貯まらない」という感覚は、この構造からきていることが多いのです。

退職金を組み合わせると、税負担が劇的に変わる

ここで鍵になるのが、「退職所得」という所得区分の特別扱いです。退職金には、月給とはまったく異なる税計算が適用されます。

課税対象の計算式は「(退職金 − 退職所得控除)÷ 2」。この「÷2」が非常に大きなポイントです。勤続20年の役員であれば退職所得控除は800万円。退職金2,000万円を受け取った場合、課税対象はわずか600万円になります。同じ2,000万円を給与として受け取った場合と比べると、税負担が半分以下になるケースも珍しくありません。

長年にわたって月額報酬として受け取り続けるより、一部を退職金として将来受け取る形に設計するだけで、同じ総額でも手取りが数百万円単位で変わってきます。

役員社宅・現物給付との「三段活用」が本命

さらに効果的なのが、月額報酬の最適化・退職金設計・役員社宅を組み合わせる方法です。

役員社宅とは、会社が物件を借り上げて社長が住む形にするもの。家賃の大部分を法人の経費にしながら、個人の課税所得を圧縮できます。都内で月40万円の物件に住んでいるなら、個人で払うより年間で数百万円の差が生まれることもあります。

この三つを組み合わせて長期設計すると、生涯の手取りが累計3,000万円以上変わるという試算は、決して大げさな話ではありません。年商10億円規模の会社でこれを実践していないなら、今すぐ見直す価値があります。

ただし設計を誤ると、税務否認のリスクがある

退職金は「大きければ大きいほど良い」というわけではありません。税務署がチェックするのは「功績倍率」と「勤続年数」の設定です。

功績倍率とは、退職時の最終月額報酬に掛け合わせて退職金額を算出する倍率のこと。代表取締役であれば一般的に3倍以下が税務上の安全圏とされています。これを超えると「不相当に高額な役員退職給与」として一部が損金否認されるリスクがあります。

また、退職金を増やしたいからといって直前に月額報酬を急に引き上げるのも問題です。「報酬を意図的に操作した」と認定されると、退職金の計算基礎そのものが否定されることがあります。設計は数年単位で、計画的に進めることが重要です。

顧問税理士に「こちらから聞く」ことが大事

年商5億円を超えたあたりから、役員報酬の「金額」よりも「設計」が重要になってきます。定額報酬を淡々と受け取り続けるだけでは、10年・20年の視点で見たとき、数千万円単位の差がついてしまいます。

退職金規程をまだ整備していない、役員社宅を使ったことがない、という方は、今期中に一度「役員報酬の最適化」というテーマで税理士に相談してみてください。税理士は聞かれないと提案しないことも多いので、こちらから議題として持ち出すのがポイントです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。