先日、税務調査の事前通知が届いた翌朝に、慌てて電話をくれた社長がいました。「どこから手をつければいいか、まったく見当もつかない」と、声に焦りがにじんでいました。
税務調査は突然やってくるわけではありません。事前通知から調査まで、おおよそ2週間の準備期間があります。ただし、帳簿が整備されていなければ、その2週間は焦りと後悔の連続になります。
実は、調査官が「最初に開く帳簿」はある程度決まっています。どこを重点的に整備しておくかを知っているだけで、対応の心構えがまったく変わります。今回は、その5つをランキング形式でお伝えします。
第5位:棚卸資産台帳
「在庫はざっくりでいい」と思っていませんか? 製造業や卸売業はもちろん、飲食・小売業でも、期末在庫の計上漏れは真っ先に指摘されるポイントです。
調査官は前年と当年の在庫額の変動と、売上の動きとの整合性を確認します。在庫が過小計上されていると、利益を意図的に圧縮したとみなされるケースがあります。
実地棚卸の記録は、品目・数量・単価まで残しておくのが基本です。「だいたいこのくらい」では、説明を求められたときに詰まります。
第4位:交際費伝票
交際費は、税務調査で最もよく問題になる科目のひとつです。2024年4月の税制改正により、1人あたり1万円を超える交際費は全件精査の対象となりました。
証憑(領収書)に「誰と・どんな目的で」が記載されていない場合、全額損金不算入とされる可能性があります。「接待交際費」と書いてあっても、取引先の名前が入っていなければアウト、というケースは珍しくありません。
接待のたびに、領収書の裏や別紙へ参加者と目的をメモしておく習慣をつけるだけで、大きなリスクを避けられます。
第3位:売掛金元帳
「売上はもう計上している」と思っていても、計上タイミングのズレが問題になることがあります。
たとえば、3月末に納品が完了しているのに、売上を4月に計上していた場合。これが意図的なものと判断されると、「売上隠蔽」として認定されるケースがあります。実際には単純なミスであっても、調査官の目には「期ズレ」は鋭く映ります。
売掛金元帳は入金消込のタイミングも含めて整合性を保つことが重要です。請求書・納品書・入金履歴の三点セットで管理できていると、説明がスムーズになります。
第2位:現金出納帳
「うちはカード払いが多いから現金は少ない」という会社でも、現金出納帳は軽視禁物です。残高が1円でも合わなければ、調査官はそこから遡って全明細の調査を始めます。
現金管理が雑な会社は、他の帳簿も雑だと判断されます。逆に言えば、現金出納帳がきれいに整備されていると、調査全体の心証がよくなります。
日々の残高確認と、現金の動きが「なぜ発生したか」の記録を習慣化するだけで、調査リスクは大きく下がります。
第1位:役員報酬の議事録と役員貸付金
1位は、中小企業オーナー社長の多くに直接関係する、役員報酬と役員貸付金です。
役員報酬は、原則として事業年度開始から3ヶ月以内の定時改定しか損金に算入できません。このルールを知らずに途中で増減させると、その分が全額損金不算入となります。追徴税額が3,000万円を超えた事例も、実際に存在します。
さらに、役員が会社からお金を借りている「役員貸付金」は、調査官の目に必ず留まります。返済の見込みがないと判断された場合、給与として認定課税されるリスクがあります。
株主総会・取締役会の議事録が整備されているかどうかも確認対象です。議事録がなければ、役員報酬の根拠を問われたときに何も示せません。
まず一つだけ、今日から手をつける
5つすべてを一気に整備しようとすると、どれも中途半端になりがちです。まずは、自社でいちばん管理が甘いと感じる帳簿を一つだけ選んで、ルールを決めることから始めてみてください。
役員報酬の議事録が整備できていない会社は、今期の株主総会の議事録だけでも先に作成しておくことをおすすめします。帳簿整備は地味な作業ですが、「整備している会社」と「いない会社」では、調査に入られたときの結果が大きく変わります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。