先日、ある製造業の社長からこんな話を聞きました。

「年収が1億円を超えたとき、これだけあれば何でもできると思っていたんです。でもいざ確定申告を終えてみたら、手取りが5,000万円を切っていて。正直、ぞっとしました」

この感覚、決して珍しくありません。役員報酬が1億円に達すると、所得税と住民税を合わせた実効税率は約50%。稼いだお金の半分近くが税金として消えていきます。仕方のないことのように聞こえますが、実はここに大きな見落としがあります。

「稼ぎ方」より「受け取り方」が大事な理由

税率50%は確かに法律上の数字です。でも、「どう受け取るか」「いつ受け取るか」を変えるだけで、同じ金額でも税負担は大きく変わります。

多くの社長が見落としているのは、報酬の「総額」ではなく「受け取り方の設計」を変えることで、年間3,000万円以上の節税が現実的に可能だということです。しかもすべて合法の範囲内で。今日はその3つの穴をご紹介します。

①退職金——「半分以下の税率」で受け取る仕組み

役員報酬は稼ぐほど累進課税で削られますが、退職金にはまったく異なる計算式が適用されます。

勤続年数が30年あれば、退職所得控除だけで1,500万円。さらに「(退職金 - 控除額)÷ 2」が課税対象となるため、実質的な税率は報酬の半分以下になります。たとえば3,000万円を退職金として受け取った場合、課税対象の所得は750万円程度。同じ3,000万円を役員報酬として追加した場合とは、税額が数百万円単位で変わってきます。

ここで重要なのは「計画性」です。退職金の原資は在任中から積み立てておく必要があり、退職直前に慌てて動いても効果は半減します。在任中から損金算入できる仕組みを使いながら、将来の退職金を今から設計しておくことが鉄則です。

②持株会社化——法人税率の「段差」を活用する

個人の所得税は金額が増えるほど税率が上がり続けます。一方、法人の実効税率は規模によりますが20〜30%程度。この差を利用するのが持株会社化の考え方です。

事業会社の株式を持株会社(ホールディングス)が保有し、事業から生まれた利益を配当として法人で受け取ることで、個人に集中していた所得を分散させていきます。法人間の配当には「受取配当等の益金不算入」という優遇制度があり、条件を満たせば配当の大部分が非課税になります。

ただし設立・運営のコストもかかるため、「とりあえず会社を作ればいい」という話ではありません。グループ全体の税務設計が必要で、見切り発車は税務リスクに直結します。

③損金算入型の法人保険——課税所得を削りながら積み立てる

法人が契約者・受取人となる特定の保険商品は、保険料の一部または全部を損金として計上できます。これにより課税所得を圧縮しながら、将来の退職金原資を積み上げていく設計が可能です。

2019年の税制改正以降、規制は以前より厳しくなりました。それでも、設計次第では①の退職金プランと組み合わせることで相乗効果が生まれます。注意したいのは「節税目的だけで加入しない」こと。解約返戻率や解約タイミングを含めた長期シミュレーションが必須です。

3つを組み合わせると、数字が変わる

①退職金設計、②持株会社化、③法人保険をセットで設計することで、役員報酬1億円の社長が年間3,000万円以上の税負担を圧縮できるケースは珍しくありません。

ただし、組み合わせには「順番」があります。持株会社を先に設立すると保険契約の名義問題が生じたり、退職金の計算起点がずれたりすることがあります。個別の施策を単発で実施するより、全体を見通した設計図を最初に描くことが成果の差を生みます。

こうした設計は、税理士によって得意・不得意がはっきり分かれます。節税や事業承継に実績がある税理士に、早めに相談することをおすすめします。

役員報酬の水準が上がったタイミングが、税務設計の見直しどきです。「今の報酬体系のままでいいか」を一度専門家に確認してみてください。動き出すのが早ければ早いほど、選択肢は広がります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。