先日、年商8億の建設会社を経営するオーナー社長から相談を受けました。「そろそろ引退を考えているんだけど、退職金ってどう受け取ればいいんだろう」という話です。
この社長、これまで役員報酬を高めに設定していたのですが、「退職時に一気に受け取る」という視点がまったく抜けていました。実は受け取り方を変えるだけで、課税額は劇的に変わります。同じ5,000万円でも、役員報酬として受け取るか退職金として受け取るかで、手取りに1,000万円以上の差が出ることも珍しくありません。
役員報酬で受け取ると、半分近くが税金で消える
日本の所得税は累進課税で、住民税と合わせた最高税率は55%です。役員報酬として高額を受け取り続けると、受け取った金額の多くが最高税率帯に引っかかります。
仮に5,000万円を役員報酬として受け取ると、諸控除を差し引いてもなお、税負担は2,000万〜2,500万円レベルになることがあります。「頑張って稼いだお金の半分近くが税金で消える」という状況です。
退職金だと、なぜ課税が抑えられるのか
退職金には、給与所得とはまったく異なる税制が適用されます。
まず「退職所得控除」という大きな控除が使えます。勤続年数が長いほど控除額は増え、20年勤続なら800万円、40年なら2,200万円の控除が受けられます。そしてもう一つ、退職金には「2分の1課税」というルールがあります。退職所得控除を引いた残りの金額の、さらに半分にしか課税されないのです。
具体的に計算してみましょう。3,000万円の退職金を受け取り、退職所得控除が800万円だとすると、課税対象になるのは「(3,000万円 − 800万円)÷ 2 = 1,100万円」だけです。3,000万円を丸ごと課税されるのではなく、実質1,100万円分の税負担で済む。これが退職金優遇の本質です。
企業型DCと組み合わせると「三重の節税」になる
退職金の優遇だけでも十分大きいのですが、さらに強力な組み合わせがあります。それが「企業型DC(企業型確定拠出年金)」です。会社が毎月掛金を積み立て、役員や従業員が投資信託などで運用する仕組みで、三つの節税メリットが重なります。
掛金が損金算入される。会社が拠出した掛金は全額が経費として損金算入されます。掛けた分だけ法人税の課税対象から除外できるわけです。
運用益が非課税になる。通常、投資信託の運用益には約20%の税金がかかります。ところが企業型DCの口座内では、どれだけ増えても課税されません。長期運用になればなるほど、この差は大きく開いていきます。
受取時に退職所得控除が使える。積み立てたお金を一時金として受け取るとき、前述の退職金優遇がそのまま適用されます。掛けるときも、増えるときも、受け取るときも節税になる。これが「三重の節税」と言われるゆえんです。
年商10億超の社長なら、差額は数千万円になることも
企業型DCの掛金上限は月額5万5,000円(他の企業年金がない場合)です。年間66万円、30年積み立てると元本だけで約2,000万円。運用益も加わればそれ以上になります。
役員報酬の水準を適切に設定しつつ、企業型DCを最大限活用し、退職時には退職所得控除の枠を使い切る設計をしておく。この三つを組み合わせると、受け取り時の税負担が数千万円単位で変わってくることがあります。年商10億を超える社長にとって、退職金設計は「節税の本丸」と言っても過言ではありません。
設計を間違えると逆効果になることもある
注意点も正直にお伝えしておきます。退職所得控除は勤続年数に基づいて計算されるため、途中で一度退職金を受け取っていたり、役員在任期間の扱いが複雑だったりすると、想定より控除額が少なくなるケースがあります。
また、企業型DCの導入には社内規程の整備や手続きが必要です。個人で勝手に始めることはできませんし、掛金の上限は他の年金制度との兼ね合いで変わることもあります。
退職まであと10年以上あるという社長こそ、今から設計を始めるのがベストです。早く始めるほど積み立て期間が長くなり、複利の恩恵も大きくなります。今期の決算が終わったら、一度税理士と「出口戦略」を話し合ってみてください。退職後の手取りが数千万円変わる可能性があります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。