先日、年商3億円のIT企業の社長からこんな相談を受けました。「役員報酬を上げ続けているのに、手取りが増えた実感がない」と。

話を聞いていくと、月200万円の役員報酬を設定しており、年収は2,400万円。社会保険料・所得税・住民税を差し引くと、手元に残るのは半分以下になっていました。

実は、役員報酬には「最適額」があります。多すぎても少なすぎても損をする。今日はその理由を、具体的な数字で見ていきます。

3位:役員報酬ゼロ戦略の落とし穴

「社会保険料が高いから、役員報酬はゼロにして法人に貯めておく」という考え方があります。節税本などでもよく紹介されている戦略です。

ただし、法人に留保した利益には法人税実効税率約34%がかかります。個人に出すコストを避けているつもりが、法人段階でしっかり課税されてしまう。

退職金として後から回収する方法もありますが、それまで10〜20年単位で資金が拘束されます。「将来の退職金のために、今の生活資金が足りない」という状況に陥りやすいのです。

役員報酬ゼロは一見スマートに見えて、実は課税を先送りしているだけ。根本的な節税にはなりにくい選択肢です。

2位:高額報酬の罠 ── 年収4,000万円超で何が起きるか

逆に、役員報酬を高く設定しすぎるケースも問題です。

年収が4,000万円を超えると、所得税の最高税率45%に住民税10%を足して、合計55%が適用されます。稼いだ半分以上が税金として消えていく計算です。

一方、法人税の実効税率は約34%。この差額21%が、毎年ダダ漏れになっていきます。年収5,000万円の場合、最適額との比較で年間数百万円単位の差が出ることも珍しくありません。

「稼げば稼ぐほど手元に残る」ではなく、「稼ぎすぎると効率が急落する」のが高額報酬の現実です。

1位:最適額は「年収1,700万円前後」

では、どのあたりが最も手取り効率が高いのか。答えは年収1,700万円前後、月給にすると約142万円前後です。

なぜこの水準なのかというと、健康保険の標準報酬月額に上限があるからです。月収が139万円を超えると、社会保険料は上限固定になります。それ以上報酬を増やしても、社会保険料はもう増えない。

つまり、この境界を超えた分は「社会保険料のコスト増なしに手取りを伸ばせるゾーン」に入るわけです。所得税率もこの水準ではまだ最高税率に達しておらず、法人税率との差が比較的小さい。知っているか知らないかだけで、手取りの差が生涯で数千万円規模になることもあります。

報酬額だけで終わらせない。全体設計が大切

「年収1,700万円に合わせれば節税完了」ではありません。実際には、他の要素も組み合わせることで効果が高まります。

  • 配偶者や家族への給与(所得の分散)
  • 役員退職金の積み立て設計
  • iDeCo・小規模企業共済の活用
  • 役員社宅・社用車などの現物給付

これらを組み合わせて最適解を出すのが、本来の節税プランニングです。1,700万円はあくまで「起点」。そこから全体を設計するイメージです。

決算前に、一度だけ数字を見直してみてください

役員報酬は期中に変更できません(原則として)。決算から3ヶ月以内の定時改定しか認められないため、タイミングを逃すと1年間は固定されてしまいます。

今の報酬額を「なんとなく」で決めているなら、次の定時株主総会前に一度試算することをおすすめします。年収1,700万円という目安を頭に入れた上で、税理士と一緒に計算してみてください。知っているかどうかで、2,500万円単位の差が生まれることもある話ですから。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。