先日、年商4億円の印刷会社を経営するSさんから、こんな相談を受けました。
「5年ほど前に保険会社の営業担当から『全額損金で落とせる』と説明されて法人保険に加入したんですが、最近、税務調査でアウトになったという話を聞いて…。うちは大丈夫でしょうか?」
結論から言うと、Sさんの保険は即座に設計を見直す必要がある状態でした。
2019年改正が「ゲームチェンジャー」だった理由
2019年7月、国税庁は法人が契約する定期保険と第三分野保険の保険料に関する取り扱いを大きく変えました。それ以前は、解約返戻率が高い保険でも全額を損金として計上できる「全額損金型」の設計が広く使われていました。
この設計の何が問題だったかというと、保険本来の目的(万一のリスク対策)ではなく、節税手段としてだけ機能していたからです。税務当局もそれを問題視し、2019年以降は最高解約返戻率に応じて損金算入割合を段階的に制限する新ルールが導入されました。
改正から7年近くが経った今も、「うちの保険は昔からのやつだから関係ない」と思っている社長が少なくありません。しかしこの認識は、今や非常に危険です。
「知らなかった」では済まない。税務調査の実態
保険会社から「既契約は影響なし」と説明を受けていたり、担当税理士から特に指摘されていなかったりするケースがあります。しかし税務調査の現場では、旧型設計のまま全額損金を取り続けた会社に対して、過去5年分を遡及して否認する事例が報告されています。
否認されると何が起きるか。元の追徴税額に加えて延滞税と加算税が乗ってきます。悪質と判断された場合には重加算税まで課され、実質的な追徴負担が通常の3倍近くに膨らんだ事例も出ています。
「保険料は毎年ちゃんと払っている」「証券も保管してある」は関係ありません。問題は処理の方法、つまり損金算入の設計が現行ルールに合っているかどうかです。
2024年改正で何が変わったか
2024年にはさらに新たなルール整備が入り、解約返戻率の「ピーク設計」に関する取り扱いが明確化されました。
今の正しい設計の基本は次の3点です。
- 最高解約返戻率に応じた損金算入割合(60%・40%・ゼロなど)を適切に適用する
- 解約返戻金のピーク時期を、退職金準備など経営上の出口タイミングと合わせる
- 保険料と返戻金の差額がどのくらいの節税効果を生むか、税引後ベースで計算する
複雑に聞こえますが、要するに「全額損金が取れる時代は終わった。でも、適切に設計すれば法人保険は今も有効な節税ツールになる」ということです。
見直した社長と放置した社長、その差は数千万円
あるオーナー企業では、2019年以前の全額損金型保険を2024年時点でも継続していました。年間保険料は800万円、加入から8年です。
税務調査が入った結果、直近5年分の損金算入が否認。本来認められる金額との差額に対して本税・延滞税・加算税が課され、最終的な追徴総額は4,200万円を超えました。
一方、早めに見直した会社のケースでは、損金算入割合を現行ルールに合わせて再設計し、ピーク時の解約返戻金を退職金準備と結びつけることで、節税メリットを維持しながらリスクをゼロに抑えることができています。同じ保険料を払っていても、設計の違いで結果がまったく異なります。
今すぐ確認すべき3つのポイント
現在法人保険に加入中の社長が確認すべきことは、大きく3点です。
- 加入時期と契約内容:2019年7月以前に設計された全額損金型かどうか
- 損金算入割合:現在の経理処理が新ルールに準拠しているかどうか
- 出口設計:解約時期・解約返戻金の使途が経営計画と連動しているかどうか
特に「昔の保険をそのまま続けているだけ」という社長は、一度保険証券を顧問税理士に見せて確認することをおすすめします。
旧型の法人保険を見直すことに対して、「今さら変えると損が出るのでは」と心配される方も多いです。でも、数千万円の追徴リスクを抱えたまま保険料を払い続けるよりも、今期中に設計を整えた方が明らかに安全です。保険と税務は切り離せません。ご自身の契約が今のルールに対応しているかどうか、ぜひ一度チェックしてみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。