先日、年商2億円の製造業を営む社長から、こんな電話がありました。

「税務調査が入って、役員報酬の件で追徴税額が200万円を超えてしまいました。担当税理士からは事前に何も言われていなくて…」

話を聞いてみると、原因はシンプルでした。しかし、同じ罠にはまっている経営者は少なくありません。

知らないと怖い「定期同額給与」のルール

法人の役員報酬には「定期同額給与」というルールがあります。簡単に言うと、1年間を通じて毎月同額を支払い続けなければ、その差額分は損金(経費)として認めてもらえないという制度です。

唯一の例外が、事業年度の最初の3ヶ月以内に手続きを踏んで行う改定です。この時期さえ守れば、新しい金額を1年通じて損金に算入できます。

この社長の場合、9月に業績が好調なので月額報酬を100万円増やしました。期首からちょうど半年が経ったタイミングでした。

結果、増額分の半年分にあたる600万円が「損金不算入」と判定されました。600万円に法人税の実効税率(約34%)がかかると、追加納税は約200万円。「少し報酬を増やした」だけで、200万円の税金が発生してしまったわけです。

高い報酬が「損」になる理由

定期同額給与の問題をクリアしていても、今度は別の罠があります。

個人の所得税・住民税を合わせた実効税率は、所得が一定水準を超えると最高55%に達します。一方、法人が利益を残した場合の実効税率は約34%です。この差が21ポイントあります。

つまり、法人に残しておけばよかったお金を、高い報酬として個人に引き出しているケースでは、その差額21%分の税金を毎年余計に払い続けている可能性があります。年間でその誤差が1000万円規模なら、210万円以上の損失です。

定期同額給与ルール違反による追徴課税と、高すぎる報酬による年間の余剰課税。この2つが重なると、「役員報酬のミスで年1000万円以上損する」という話は決して大げさではありません。

最適な報酬設計は3パターン

では、どう設定すればいいのか。実務上は大きく3つのアプローチがあります。

① 低報酬型(退職金積立最大化) 役員報酬を低めに抑えて、法人内に利益を留保しながら小規模企業共済や中退共を活用する方法です。退職金として将来まとめて受け取ることで、税効率を高めます。若い経営者や、生活コストをすでに法人でカバーしている方向きです。

② バランス型(法人・個人の最適化) 法人と個人の税率が逆転しないラインで報酬を設定し、トータルの手取りを最大化する方法です。家族構成や社会保険の扱いも絡めながら最適解を探します。多くの中小企業オーナーにとって現実的な選択肢です。

③ 持株会社活用型 持株会社を設立して事業会社からの配当を受け取る構造にすることで、さらなる税効率を実現するモデルです。一定以上の規模がある経営者向けですが、設計を誤ると逆効果になることもあるため注意が必要です。

どれが最適かは、会社の規模・利益水準・経営者の年齢・家族構成・将来の出口計画によって変わります。「他の社長でうまくいった方法」がそのまま使えるとは限りません。

今期の設定を見直すなら「今」

役員報酬は設定した瞬間から、その事業年度を通じて変更できません。だからこそ、期首のタイミングで税理士としっかり試算することが、最もコストパフォーマンスの高い節税対策になります。

まず確認してほしいのは次の3点です。

  • 今期の報酬変更は期首から3ヶ月以内に行ったか
  • 現在の報酬水準が法人と個人の税率逆転ラインを超えていないか
  • 退職金の積立設計が報酬設定と連動して考えられているか

一つでも「よくわからない」という項目があれば、今期の決算前に税理士に相談することをおすすめします。役員報酬の設定は毎年繰り返す意思決定です。一度正しく設計しておくだけで、何年にもわたって節税効果が積み上がっていきます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。