先日、年商8億円の建設会社の社長から、こんな連絡が届きました。

「今期は利益が出てきたから、役員報酬を今すぐ100万円上げようと思うんだけど、問題ないよね?」

正直に伝えます。そのタイミングで増やしたら、増額分は1円も税務上の経費になりません。

「今すぐ上げたい」が裏目に出る理由

法人税法では、役員報酬が損金(経費)として認められるためには「定期同額給与」の要件を満たす必要があります。毎月、同じ金額を決まった日に支払い続けること——それが条件です。

期の途中で金額を変えた瞬間、その増額分は損金不算入になります。

たとえば月100万円の報酬を、期の途中から150万円に引き上げたとします。残り8か月分の増額50万円は損金にならない。400万円の増額分に法人税率約34%がかかれば、136万円の追加税負担が生まれます。

「手取りを増やしたい」と動いた結果、法人が余計に税金を払う羽目になる。9割の社長が知らないまま踏み抜く落とし穴です。

「据え置き」もじつは危ない

逆のパターンも要注意です。

「毎年同じ報酬額にしているから安心」——そう思っている社長ほど、見落としが多い。

会社の利益が年々拡大しているのに役員報酬を動かさないでいると、法人内に利益が積み上がっていきます。その利益には実効税率約34%の法人税がかかります。

一方で、役員報酬として個人に受け取れば、所得税・住民税・社会保険料の合計負担が法人税を下回るケースもあります。利益水準と個人の税率によっては、報酬を最適化するだけで年間2,000万円規模の差が出ることも珍しくありません。

「ずっとこの金額だから」という惰性が、毎年最適化のチャンスを1回ずつ捨てている状態かもしれないんです。

変更できるのは「3か月以内」だけ

役員報酬を変更できるタイミングは、事業年度開始から3か月以内に限られています。

この窓の中で、次の3点を確認して決定するのが正しい手順です。

  • 今期の利益見通し(売上・経費の予測)
  • 法人税率と個人の所得税・社会保険料のバランス
  • 手取りが最大になる報酬額の試算

「昨年と同じでいい」ではなく、毎年きちんと計算し直すこと。利益水準が変われば、最適な金額も変わります。

この3か月の窓を逃すと、次のチャンスは1年後です。10年間見直しを怠れば、10年分の最適化余地をそのまま捨てたことになります。

現場でよく見る3つのパターン

多くの社長が陥りがちな失敗には、はっきりした共通点があります。

ひとつ目は「利益が出たから今すぐ上げよう」と期中に動くケース。増額効果が丸ごと吹き飛びます。

ふたつ目は「変えるのが面倒だから据え置き」のケース。法人に利益が積み上がり、34%の税率で課税され続けます。

みっつ目は「決算が近づいてから税理士に相談」するケース。変更できるタイミングはとっくに過ぎています。

「知らなかった」では済まない金額が、毎年静かに消えていきます。

今すぐ確認してほしいこと

今期の事業年度開始から3か月以内にまだ猶予がある方は、今日中に顧問税理士に連絡することをおすすめします。今期の利益見通しを伝えて、最適な報酬額を試算してもらってください。

「去年と同じでいい」と口にする前に、その一言が年間で何百万円もの差を生む可能性があることを、ぜひ頭の片隅に置いておいてください。

役員報酬は、経営者が合法的に手取りを増やせる数少ない手段のひとつです。毎年3か月の窓をきちんと活かせるかどうか——それだけで、10年後の資産規模はまったく変わってきます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。