先日、年商8億円の建設業を経営する社長から連絡が来ました。「今期は業績が一気に伸びたので、役員報酬を上げたいんですが、今からでもできますか?」
事業年度の開始月を確認すると、すでに4ヶ月が経過していました。残念ながら、今期の変更は税務上、難しい状況でした。
これはその社長だけの話ではありません。役員報酬の「変更期限」を知らないまま、最適化のチャンスを1年丸ごと逃してしまっている経営者が、実は相当数います。
役員報酬は「毎月同額」が大前提
役員報酬を法人の経費(損金)として計上するには、「定期同額給与」の要件を満たす必要があります。
定期同額給与とは文字通り、毎月同じ金額を継続して支払い続ける報酬のことです。月200万円と決めたなら、12ヶ月間ずっと200万円を支払い続ける。それが法律上の条件です。
途中で金額を変えると、変更前後の差額部分が損金として認められなくなります。つまり法人税の計算上、その分だけ余計に税金がかかるということです。
変更の窓は、年に1回しかない
では役員報酬は、いつ変えられるのか。
法人税法上、定期同額給与の変更が認められるのは「事業年度開始から3ヶ月以内」が原則です。3月決算の会社なら4〜6月、12月決算なら1〜3月の3ヶ月間だけが、変更できる唯一のウィンドウです。
この期限を1日でも超えると、次の事業年度が来るまで——最大12ヶ月間——変更することができません。
実務では、定時株主総会で役員報酬の総枠や個人の報酬額を決議するのが通常の流れです。3月決算なら6月に総会を開いて、そこで次期の役員報酬を決める。この流れを踏まえると、「3ヶ月以内」はそれほど長い期間ではないことが分かります。
1,000万円の差が生まれる理由
役員報酬の水準は、法人税・個人所得税・社会保険料という3つのコストを同時に動かします。
報酬を高く設定すれば法人の利益が減って法人税は下がりますが、個人の所得税・住民税と社会保険料が増えます。逆に低く設定すれば個人の税負担は軽くなりますが、法人に利益が積み上がって法人税がかかります。
このバランスを最適化するのが、オーナー経営者の節税の核心です。年商10億円規模の会社では、報酬水準の設定次第で年間トータルのコストが1,000万円以上変わることも珍しくありません。月額に直すと、80万円以上の差です。
「昨年のままでいいか」という惰性で報酬を据え置くと、知らないうちに数百万円の最適化機会を失っていることがあります。
例外はあるが、条件は厳しい
期限外でも変更が認められる例外的なケースはあります。役職の大幅な変更(降格・昇格)を伴う場合や、会社の業績が著しく悪化した場合などです。
ただし「業績が良くなったから増やしたい」という理由は例外として認められません。期限外変更を無理に試みると、税務調査で差額を否認されるリスクがあります。変更が必要な場合は、必ず事前に税理士と相談してください。
今期の期限、把握していますか?
毎年この時期に確認しておきたいのが、自社の事業年度の開始月と、3ヶ月の変更期限がいつ来るかです。
期限が近づいてから慌てて相談しても、試算や検討に時間がかかります。理想は事業年度が始まる1〜2ヶ月前に、翌期の業績見通しと報酬水準の最適化を検討しておくことです。
「今年は設備投資を予定している」「借入の繰り上げ返済を考えている」「M&Aや相続の準備がある」——こうした翌年度の計画を踏まえた報酬設計が、長期的な節税につながります。
まだ今期の役員報酬を見直していないなら、変更期限が来る前に税理士に相談することをおすすめします。来期に大きな変化を予定しているなら、なおさらです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。