先日、ある社長からこんな連絡が届きました。「顧問の先生から役員報酬を下げた方がいいって言われたんですが、来期から変更できますよね?」——残念ながら、その時点ではすでに間に合わないタイミングになっていました。
「来期から」のつもりが、実は「来々期から」になってしまう。この落とし穴にはまる社長は、毎年一定数います。
変更できる窓口は年に一度、3ヶ月だけ
役員報酬を変更できるタイミングは、税法上で厳しく定められています。原則として、事業年度の開始から3ヶ月以内に限られます。この期限を過ぎると、翌事業年度が始まるまで変更は認められません。期限後に変更しても、超過分は損金として扱われず、法人税の計算で不利になります。
3月決算の会社なら、4月・5月・6月の3ヶ月が変更可能な期間です。7月に入ってしまったら、次のチャンスは1年後です。
いまこれを読んでいる方の中に、「もしかして今月末が期限では……?」と思い当たった方もいるのではないでしょうか。決算月によっては、まさに今月末が最終期限になっている会社も少なくありません。
年収が高いほど、税の重さは増していく
役員報酬の水準が高いと、所得税の累進課税がのしかかってきます。所得税の最高税率は45%、そこに住民税10%が加わると、実質的な税負担率は**55%**に達します。
年収3,000万円の社長を例にすれば、税引き後の手元に残るのはざっくり1,350万円前後。半分以上が税金として出ていく計算です。「稼いでいるのに手元に残らない」という感覚は、この数字を見れば腑に落ちます。
同じ金額でも、退職金に回すと課税の計算が変わる
ここで注目したいのが、退職金の課税方式です。退職所得は、次のように計算されます。
(退職金の総額 − 退職所得控除)× 1/2 = 課税退職所得
この「1/2課税」と「退職所得控除」の組み合わせが、毎年の役員報酬との決定的な差を生み出します。
勤続20年の役員が退職金3,000万円を受け取るケースで考えてみましょう。退職所得控除は800万円(40万円×20年)。課税対象は(3,000万円 − 800万円)× 1/2 = 1,100万円です。3,000万円受け取っても、税金がかかるのは1,100万円分だけ。
同じ金額を毎年の役員報酬として受け取り続ければ、最高税率の累進課税が毎年かかります。長期で積み上げた場合の差は、2,000万円を超えるケースも現実に出てきます。
「下げればいい」という単純な話でもない
ただし、役員報酬の最適化は一筋縄ではいきません。
報酬を下げすぎると、法人側の利益が膨らんで法人税が増えます。退職金を厚くするためには、それを支払うための原資(内部留保)も必要です。退職金には税務上の適正水準があり、功績倍率や勤続年数を無視した設計は「過大退職金」として否認されるリスクもあります。
さらに、社会保険料や銀行融資の審査でも役員報酬の水準は影響します。単純に「下げて退職金に回す」ではなく、業績・資金繰り・退職計画を総合的に組み合わせた設計が不可欠です。
「あの時やっておけば」を防ぐために
節税の多くは、タイミングで決まります。知識があっても、手続きの期限を逃せば1年間は何もできません。
今月が変更期限に当たる会社の経営者は、いまが最後のチャンスです。顧問税理士に「今期の役員報酬の水準、このままで本当にいいですか?」と一本電話してみてください。5分の確認が、来期の手取りを数百万円単位で変えることがあります。
まだ退職金設計のシミュレーションをしていないなら、今期の決算前に一度試算してもらうことをおすすめします。数字を見てから判断しても、遅くはありません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。