「うちはもう何年も役員報酬を変えていないから大丈夫」

先日、税務調査が入ったという経営者の方からそんな声を聞きました。でも調査官が指摘したのは、金額そのものではありませんでした。議事録がなかったのです。

税務署は毎年数万件の法人を調査しています。そのなかで役員報酬の否認は頻出パターンのひとつで、追徴課税の平均は約1,200万円にのぼります。「知らなかった」では済まないケースがほとんどです。

今回は、税務調査で実際に指摘される役員報酬のミスを3つ、整理してみます。

第3位:株主総会の議事録が整っていない

役員報酬を損金として認めてもらうには、株主総会での決議と正式な議事録が前提条件です。これを知らずに「ひとり社長だから自分で決めれば済む」と思っていた方が、調査で痛い目を見ています。

よくある失敗は「議事録は作っているが日付が後付け」というものです。決算後に慌てて遡って作成すると、調査官はすぐに気づきます。議事録の日付と記録媒体のメタデータが一致しないケースは少なくありません。

もうひとつは「そもそも決議していない」というパターンです。役員報酬は毎期、事業年度開始から3ヶ月以内に株主総会を開いて正式に決議し直す必要があります。創業から10年経っていても、毎年繰り返す手続きです。

面倒に感じるかもしれませんが、議事録の整備は役員報酬の大前提。まず今期の議事録から確認してみてください。

第2位:期中に役員報酬を変えてしまった

役員報酬には「定期同額給与」というルールがあります。簡単に言うと、1年間を通じて毎月同額を支払い続けることが、損金として認められる条件のひとつです。

業績が好調だと「今期は利益が出そうだから社長報酬を上げよう」と思うのは自然な感情です。しかし事業年度の途中で増額すると、その増額分は全額が損金不算入になります。節税のつもりが、逆効果になるわけです。

役員報酬を変更できるのは、原則として事業年度開始から3ヶ月以内だけです。たとえば3月決算の会社なら、4〜6月中に総会を開いて改めて決議し直すのが正しい手順です。

「7月に少し上げた」「業績が落ちたので12月に下げた」という話をよく聞きますが、これらは原則として損金として認められません。役員報酬は年に一度、計画的に決めるものと心得てください。

第1位:同業他社と比べて不相当に高額

これが最も影響額が大きく、調査官が必ずチェックするポイントです。

役員報酬が損金として認められるには、「不相当に高額な部分ではないこと」が条件です。類似する規模や業種の会社と比べて明らかに高額な部分は、税務上否認されます。

たとえば年商3億円の会社で、同業他社の相場が月100万円のところ、月300万円を支払っていたとします。「自分の会社の利益なのだから自由では?」と思うかもしれませんが、税務署は類似法人との比較データを豊富に持っています。

否認される典型的なパターンは大きく3つです。ひとつは同業他社と比較して明らかに高額な部分、ふたつ目はオーナーへの実質的な利益分配とみなされるケース、そして三つ目は業績が悪化しているにもかかわらず高額報酬を維持し続けている場合です。

追徴課税の平均が約1,200万円というのは、この1位の事例が大きく影響しています。役員報酬の設定は「いくら払えるか」ではなく、「いくらなら適正と認められるか」という視点で考える必要があります。

今すぐ確認したいチェックリスト

3つのミスを頭に置いたうえで、自社の状況を振り返ってみましょう。

  • 今期の株主総会議事録は、期首3ヶ月以内に正式に作成されているか
  • 役員報酬の金額を期中に変更していないか
  • 同業他社の相場と比べて、不相当に高い水準になっていないか

ひとつでも「あやしい」と感じたなら、今期中に顧問税理士に相談するのが得策です。税務調査は予告なくやってきます。議事録の不備や期中変更は、気づいた時点で修正できる余地がある場合もあります。

「うちは大丈夫」と思っていた社長が、調査後に1,200万円の追徴を受ける——これは決して他人事ではありません。役員報酬の設定は、毎期かならず専門家と一緒に確認する習慣をつけておきましょう。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。