先日、製造業を経営する社長から深刻な相談を受けました。
「税務調査が入って、役員報酬を全部否認すると言われた。5年遡及で2億円超の追徴になるかもしれない」と。
業績も安定していて、脱税なんて話でもない。ただ、書類の整備を後回しにしていた。それだけで、です。
役員報酬は社長の「生活費」であると同時に、会社の税負担を左右する最大の変数です。ここをミスると、一瞬で何百万・何千万という話になります。今日は実際に問題になりやすいミスを3つ、具体的にお伝えします。
第3位:業績が良かったので、期中に増額した
「今期は調子がいいから、自分の報酬を上げよう」。気持ちはよくわかりますが、これが落とし穴です。
役員報酬には「定期同額給与」というルールがあります。要は、事業年度を通じて毎月同じ金額でなければ損金に算入できない、という制度です。期の途中で増額した場合、増額分は全額「損金不算入」—つまり会社の経費として認められません。
年間で月25万円の増額をした場合、300万円が損金から外れます。法人税率を34%として計算すると、追徴税額はおよそ102万円。たった1回の「気まぐれ増額」で、これだけの差が出ます。
例外的に期中変更が認められるのは、事業年度開始から3ヶ月以内の改定や、経営状況が著しく悪化した場合など、要件が厳格に定められています。「黒字だから上げる」は残念ながらその要件に該当しません。
第2位:役員賞与を「届出なし」で払った
役員に賞与を払うこと自体は問題ありません。ただし、払い方に条件があります。
「事前確定届出給与」という制度をご存知でしょうか。役員に賞与を払いたいなら、いつ・いくら払うかを事前に税務署へ届け出て、その通りに支払う必要があります。届出なしで支給した賞与は、全額損金不算入です。
500万円の役員賞与を届出なしで払った場合、その500万円全額が経費として認められない。つまり、170万円前後の税負担増になります。たった1枚の届出書を忘れただけで、です。
届出の期限は「職務執行開始日」または「事業年度開始から4ヶ月を経過する日」のいずれか早い日まで。決算が終わってから「今年は賞与も払いたい」と思っても、もう間に合いません。賞与を検討するなら、必ず期初に顧問税理士と相談することをお勧めします。
第1位:株主総会の議事録が存在しない(または不備だらけ)
ここが最も深刻です。
役員報酬は、株主総会または取締役会での決議によって定めるものです。その決議の証明となるのが「議事録」。この議事録がない、あるいは内容が不十分な場合、税務調査で「適正な手続きを経た報酬である証明ができない」と判断され、役員報酬の全額が損金否認の対象になり得ます。
冒頭の社長の話に戻ります。年間1億円の役員報酬が、議事録の不備を理由に5年分遡及して否認されると、追徴税額は2億円を超えます。税金だけでなく、延滞税・加算税まで乗ってくる。
「毎年ちゃんと払ってきたのに」では通らない世界です。
特に注意が必要なのは、同族会社や一人社長の会社。「どうせ自分が100%株主だから議事録なんて形式だけでいい」と思って後回しにしがちですが、税務署はそこを狙います。議事録は毎年必ず作成し、日付・出席者・決議内容・署名を揃えて保管する。これが最低限の防衛ラインです。
今すぐできる3つの確認
- 今期の役員報酬が、4月以降も毎月同額で払われているか
- 役員賞与を払う予定があるなら、事前確定届出給与の届出を出したか
- 直近3〜5年分の株主総会議事録が手元に揃っているか
この3点を確認するだけで、リスクの大半は見えてきます。
役員報酬は「いくらもらうか」より「どうルール通りに決めるか」の方が、税務上ははるかに重要です。金額の問題より、手続きと書類の問題。
特に議事録については、「顧問税理士に任せている」と思っていても、実際には作成されていないケースが中小企業では珍しくありません。一度、今期分の議事録を見せてほしいと顧問先に言ってみてください。もしすぐ出てこないなら、今がリカバリーのタイミングです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。