先日、ある不動産会社の社長からこんな相談を受けました。「M&Aで会社の整理もできたし、節税もうまくいったと思っていたのに、税務調査で2億円近い追徴課税が来た」という話です。相談に来た時には、決算書を手に青ざめた顔をしていました。

M&Aは大きな節税チャンスになりえます。しかし同時に、税務当局が最も警戒する取引のひとつでもあります。M&A実施後3年以内は税務調査に入られる確率が通常の約3倍とも言われており、「うまく節税できた」と胸をなでおろした直後に調査官が来るケースは、決して珍しくありません。

M&Aの後に調査が集中する理由

税務調査は、大きな取引が動いた法人を優先的にマークします。M&Aはそのわかりやすい例で、金額が大きく、スキームが複雑なほど「確認事項が多い案件」として調査リストに上がりやすくなります。

特に非上場会社の株式が絡む取引は要注意です。上場株と違い、非上場株には「市場価格」がありません。そのため売買価格の根拠が問われやすく、算定基準が恣意的になりがちです。「社内で計算した概算」で進めていた社長が、後から痛い目に遭うパターンの典型がここにあります。

追徴された社長の共通点は「株価算定の甘さ」

追徴課税を受けた社長の案件を見ていくと、ほぼ必ずといっていいほど「非上場株の株価算定が甘かった」という共通点があります。

税務署は、非上場株の評価に財産評価基本通達という独自の計算基準を使います。この基準を無視した価格設定は、ほぼ確実に否認されます。たとえば、時価が1億円の株式を3,000万円で親族や役員に移転した場合、その差額7,000万円が「みなし贈与」や「低額譲渡」と認定されます。

認定された瞬間、贈与税・法人税に加えて過少申告加算税が一気に課されます。「安く売った」つもりが、差額を丸ごと課税されるわけです。しかも、元々の節税効果と相殺されるどころか、追徴が節税額を上回るケースも実際に起きています。

「節税だけが目的」は全額ひっくり返る

もうひとつ見落とされやすいリスクが「租税回避否認」です。

M&Aでは、会社分割や合併などの組織再編を活用した節税スキームが多く使われます。しかしこのスキームには前提条件があります。再編に「正当な事業目的」があることです。

節税効果だけを狙い、形式だけ整えた組織再編は、税務署に「経済的合理性がない」と判断された瞬間、税メリットが全額否認されます。ある案件では、会社分割で数千万円の節税を見込んでいたにもかかわらず、「分割の実態がない」として全額否認され、加算税込みで元の税額を超える追徴になったケースもあります。スキームの外形ではなく、実態と事業目的が問われる点を、絶対に忘れてはいけません。

専門家レビューは「設計段階」から

M&Aの節税スキームを考える際、「スキームが固まってから税理士に確認する」という進め方をとる社長が少なくありません。しかしこれは大きな落とし穴です。

スキームが固まった後では変更が効かなくなります。税務リスクを指摘されても「今さら変えられない」となりやすく、リスクを抱えたまま進めるしかない状況に追い込まれます。税務専門家のレビューは、スキームの設計段階から組み込むのが正解です。

特に確認すべきポイントは3つです。

  • 株価算定に財産評価基本通達ベースの根拠が揃っているか
  • 組織再編に正当な事業目的の説明が準備されているか
  • 移転後のオーナーシップ変化が税務上の実態と一致しているか

この3点を専門家と一緒にチェックしておくだけで、税務調査が来ても堂々と対応できる体制が整います。

M&Aを動かす前に、一度立ち止まる

節税を目的にM&Aを活用すること自体は、何も問題ありません。正しいスキームで正しく実行すれば、合法的に大きな節税効果が得られます。

ただし「安く買った、節税できた」で終わらせるには、株価算定の根拠と事業目的の整理が不可欠です。これが甘いまま進めると、3年後に2億円の請求書が届くリスクがあります。

M&Aを検討しているなら、着手前に必ず税務専門家にスキームレビューを依頼してください。後から取り返す方法は、ほぼありません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。