先日、ある社長からこんな相談を受けました。「今期は業績が絶好調だったので、先月から役員報酬を月150万円上げたんですが、問題ないですよね?」
思わず「それ、いつ変更しましたか?」と聞き返しました。変更のタイミング次第では、増やした分が丸ごと追徴課税の対象になりかねないからです。
役員報酬は「思い立ったら変更できる」ものではない
役員報酬には「定期同額給与」というルールがあります。毎月同じ金額を支払い続けることで、はじめて法人の損金(経費)として認められる、という原則です。
変更が認められるのは、事業年度が始まってから3ヶ月以内に行う、年1回の改定が基本です。3月決算の会社なら6月末まで、4月決算なら7月末まで。この期限を過ぎてから「今月から増やそう」と動いてしまうと、増額した分が全額、損金不算入になります。
増えた報酬に対して法人税がかかってくる、という構造です。節税のつもりで動いた結果、逆に税負担が増えてしまう。よくあるパターンです。
実際にどれくらい痛いのか
月50万円の増額を、期限を過ぎた9月から翌3月まで続けたとします。9ヶ月で450万円が損金不算入になり、法人税率30%なら135万円の追加納税が発生します。
さらに怖いのが、税務調査が入ったときです。意図的な操作と判断されれば「仮装・隠蔽」として重加算税が35%加算されます。元の追徴税額が135万円なら、さらに47万円超が上乗せされる計算です。
そして、税務調査では過去最大3年分を遡及して調査されることがあります。毎年同じミスを繰り返していた場合、損害は単純に3倍。億単位の役員報酬を動かしている社長なら、ミス1件で数千万円規模のダメージになることも珍しくありません。
「業績が上がったから増やした」は通らない
よく聞くのが「今期は利益が出そうだから、今から役員報酬を上げて節税しよう」というパターンです。気持ちはよくわかりますが、税務上は認められません。
臨時改定として認められる要件は、法律上かなり限定的です。役員の職制上の地位の変更(昇格・降格)、職務内容が著しく変わった場合、経営状況が著しく悪化してやむを得ない場合──といった、実態を伴う理由が必要です。
「利益が出たから」「税負担を減らしたかったから」は、いずれも要件に当てはまりません。形式的に役職名を変えても、実態が伴っていなければ同じです。税務署は書類だけでなく、職務の実態も確認してきます。
調査で真っ先に見られるポイント
実務上、特に注意が必要なケースがあります。決算3ヶ月以降に業績好調を理由として報酬を上げている場合、複数の役員が同時期に報酬変更している場合、そして議事録・取締役会決議の日付が後付けになっている場合です。
議事録の日付は、税務調査で最初に確認されるポイントのひとつです。変更した月より前に取締役会決議を行い、適切な書類を整えておくことが最低条件になります。オーナー社長が親族役員の報酬も一括で動かしているケースも、調査の目が向きやすい傾向があります。
今からでも動ける場合がある
今が事業年度開始から3ヶ月以内であれば、まだ通常の方法で変更できます。取締役会議事録を作成し、変更月から同額を維持すればOKです。期限を過ぎていても、役員の地位変更など正当な理由があれば、臨時改定として認められるケースもあります。
ただし、「変えてから相談」では手遅れになることがあります。特に期末が近い時期は、動く前に必ず顧問税理士に確認してください。相談のタイミングは「動く前」です。
まず自社の事業年度と今の時点を照らし合わせて、3ヶ月以内かどうかを確認するところから始めてみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。