先日、顧問先の社長からこんな連絡がありました。「役員報酬って、毎年同じ額でいいんですよね?」

その社長、年商5億円の製造業を経営されていて、役員報酬は10年以上一度も見直したことがないと言います。それ自体は珍しくありません。ただ、2025年以降はこの「放置」が思わぬ損につながっている可能性があります。

給与所得控除と基礎控除、合計20万円の変化

2025年分の所得税から、給与所得控除が10万円、基礎控除が10万円、それぞれ引き上げられました。合計20万円の控除額の増加です。

「たった20万円?」と思うかもしれません。ただ、問題はこれが役員報酬の「最適額」を変えるという点です。役員報酬を高く設定した方がいいのか、法人に利益を残した方がいいのか。そのバランスポイントは、控除額が変わると微妙にずれてきます。

個人55%、法人34%—どちらで課税されるかの問題

役員報酬の設計は、つまるところ「どこで税金を払うか」の選択です。

個人の所得税・住民税の最高税率は55%。法人の実効税率は約34%です。この差が21ポイントもあるので、役員報酬を高くしすぎると、法人に残せば34%で済む部分まで55%の個人課税になってしまいます。

逆に役員報酬を低くしすぎると、法人の利益が膨らんで34%の法人税がかかるうえ、個人への移転でさらに課税が生じます。最適額とはこの「二つの税率が交差するポイント」のことで、今回の控除額改正でそのポイントが動いています。

年商10億、役員報酬5,000万円のまま放置した場合

具体的に考えてみましょう。年商10億円の会社で、役員報酬が5,000万円に設定されているケースです。

5,000万円という額は、所得税率が最大になるゾーン(課税所得4,000万円超で税率45%)に深く入り込んでいます。住民税10%と合わせると実質55%の税率です。今回の控除額引き上げで最適なバランスポイントが変わると、報酬額の設定次第で年間数百万円規模の節税差が生まれることがあります。

「5,000万円のままでいい」と放置する前に、今期の法人利益水準に合わせてシミュレーションを取り直すことが重要です。

役員報酬は「期中変更禁止」という落とし穴

ここで多くの社長が驚くのが、役員報酬の変更には厳しいタイミング制約があるという点です。

「定期同額給与」として損金算入するためには、事業年度の開始から3ヶ月以内—通常は決算後の株主総会のタイミング—にしか変更できません。このルールを外れた変更は損金として認められず、法人税の節税効果がそのまま消えます。

決算が近いなら、今この時期が文字通り「最後のチャンス」です。決算をまたいでしまうと、また1年待つことになります。

今すぐ顧問税理士に確認すること

役員報酬の最適額は、法人の利益水準、他の所得、家族構成によって異なります。一律に「何円が正解」という答えはありませんが、少なくとも以下の点は今すぐ確認しておく価値があります。

  • 今期の決算見込みで、法人税と個人税の合計額をシミュレーションする
  • 2025年の控除額改正を前提に、最適な報酬額を再計算してもらう
  • 変更するなら、今期の株主総会前に動く

創業以来ずっと同じ額という社長ほど、一度見直す価値があります。税務署は教えてくれませんが、自分から動いた人だけが得をするのが日本の税制の現実です。

決算前のこのタイミング、「役員報酬は去年と同じでいい」と流す前に、顧問税理士に連絡を一本入れてみてください。シミュレーション一本で、気づいていなかった数百万円の差額が見えてくるかもしれません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。