先日、年商10億円の製造業を経営するオーナー社長から、こんな打ち明け話を聞きました。

「ずっと顧問税理士には『役員報酬はほどほどにしてください』と言われていたんですが、ある専門家に会って考えが180度変わりました。報酬を増やしたわけじゃないのに、手取りが2倍近くになったんです」

最初はピンとこなかったのですが、話を聞いていくうちに、なるほどと膝を打ちました。使われていたのは「持株会社スキーム」。知っている人は知っている、でも普通の顧問税理士はなかなか提案してくれない手法です。

持株会社を作ると、配当のほとんどが非課税になる

仕組みを簡単に説明しましょう。

通常、A社(事業会社)の株式を社長個人で持っている場合、配当を受け取るたびに個人の総合課税がかかります。金額が大きくなるほど最高55%という重い税率が容赦なく刺さってくる。

ところが、持株会社(HDと呼ばれます)を設立してA社の株式をそこに移すと、話が変わります。法人が受け取る配当には「受取配当等の益金不算入」という制度があり、グループ内の子会社からの配当は95%が課税対象から外れるのです。

年間5,000万円の配当を事業会社から持株会社に流した場合、4,750万円は法人税がかかりません。手元に残る資金がまったく違ってくるのが分かるでしょうか。

法人に残った資金を、役員報酬として再設計する

ここからが本題です。

持株会社に蓄積した資金をそのまま塩漬けにするのではなく、社長個人への役員報酬として再設計すると、さらに妙味が出てきます。

事業会社と持株会社の2法人から役員報酬を受け取る形にすると、所得の分散効果が生まれます。累進課税は「1人の所得が高いほど税率が上がる」仕組みなので、2法人に分けるだけで適用税率が下がる。実効税率が30%台から15%前後まで落ちたケースも実際に存在します。

結果として、税引き後の手取りベースで見ると、報酬額が以前の2倍近くになるという計算が成り立ちます。「報酬を増やしているわけじゃないのに、手取りが増えた」という感覚です。

イメージとしてはこういうことです。

  • 従来:事業会社から報酬3,000万円、実効税率33%前後 → 手取り約2,000万円
  • スキーム後:持株会社経由で分散・益金不算入を活用 → 実効税率15〜18%前後 → 手取りが大幅に改善

数字はあくまで例ですが、規模が大きくなるほどインパクトは顕著になります。

「合法」だからといって、設計が甘いと痛い目を見る

ここで必ず押さえておきたいのが、税務否認リスクです。

持株会社スキームそのものは合法であり、国税も否定していません。ただ、「実態のない法人を使って所得を分散させた」「役員報酬の設定に合理的な根拠がない」と判断されると、否認される可能性があります。追徴課税に加えて延滞税・重加算税まで課されるケースもあり、節税どころか余計なコストを払う羽目になりかねない。

特に意識しておきたいのは以下の点です。

  • 持株会社に実体(業務・契約・意思決定の記録)があること
  • 役員報酬の設定に合理的な根拠を持たせること
  • 定期同額給与の要件を外さないこと

このスキームは「知っていれば誰でも使える裏技」ではなく、きちんと設計された法人戦略です。専門家なしで真似しようとするのは危険です。

こういう相談は、誰にすればいい?

一般的な税務顧問(記帳代行・申告サポートが主業務)の税理士は、持株会社スキームを提案してくれないことが多いです。専門外というより、設計に手間がかかるわりに顧問料に反映しにくいという事情もあります。

「組織再編税制」「事業承継対策」「持株会社設計」を得意とする税理士や、M&A・事業承継専門のアドバイザーに相談するのが近道です。

年商5億円以上、役員報酬が年間3,000万円を超えてきたあたりから、持株会社の設計を検討し始める価値が出てきます。もし顧問税理士との会話でこの話が出たことがないなら、一度「持株会社について検討したことはありますか?」と聞いてみてください。相手の反応が、その先生との相性を測るいい機会になるはずです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。