先日、海外展開を検討している年商8億円の製造業の社長から、こんな相談を受けました。「毎年3,000万円近くが法人税で消えていく。合法的に何とかできないものですかね?」

利益が出るたびに税負担がのしかかる。そのもどかしさは、多くの社長が感じているはずです。今日は、国際税務の実務で実際に活用されている「移転価格戦略」についてお話しします。正しく設計すれば、グループ全体の実効税率を23%台まで下げることができます。

日本の法人税は世界水準でも高い部類

まず現実から確認しておきましょう。日本の法人実効税率は約34%です。国税・地方税・事業税などを合算した数字で、利益が出れば出るほど3分の1以上が税金として出ていきます。

一方、同じアジアのシンガポールの法人税率は17%。各種優遇税制を活用すれば、実質的な負担をさらに下げることも可能です。年間利益1億円の企業なら、この差だけで1,700万円の違いになります。

この差を合法的に活用するのが、今回の戦略の本質です。

移転価格戦略の仕組みをわかりやすく

グループ会社間で商品・知的財産・サービスを売買するとき、その取引価格を「移転価格」と呼びます。この価格の設定次第で、グループ全体の利益がどの国で課税されるかが変わってきます。

イメージとしてはこうです。日本の親会社がシンガポールに子会社を設立し、自社が持つブランド・ノウハウ・特許などの知的財産や、マーケティング機能・調達機能をそこに移転します。子会社がそれらを活用してアジア市場でビジネスを展開することで、利益はシンガポールで計上され、17%の税率で課税されます。

グループ全体で見ると、日本の34%ではなくずっと低い税率で済む。このような設計を積み重ねることで、実効税率を23%台まで圧縮できます。

絶対に守らなければいけないルール

ただし、移転価格には厳格なルールがあります。それが「独立企業間価格」という考え方です。

グループ会社間の取引価格は、第三者間で公正に取引されるであろう価格と一致していなければなりません。「利益を圧縮したいから、シンガポール子会社に異常に高い価格でサービスを売る」といった不自然な取引は、税務署に否認されます。

そして、その価格が適正であることを文書で証明するのが「移転価格文書化」です。これが整っていないと、調査が入ったときに一発アウトになります。

文書化なしに動くのは致命的なリスク

移転価格の実務で最も怖いのは、税務調査で「説明できない」という状況に陥ることです。

日本では連結売上高1,000億円超の企業には文書化が法的義務になっていますが、それ以下の規模でも実務上は必須と考えてください。文書が不十分なまま取引を進めると、内部価格を否認され、本税に重加算税・延滞税が乗ってきます。節税のつもりが大きな追徴課税に化けるケースが、実際に起きています。

移転価格文書には、取引の種類・価格設定の根拠・比較対象となる外部データなどを盛り込む必要があります。これは専門知識がないと整備が難しく、曖昧な文書では意味がありません。

専門家なしに進めてはいけない理由

移転価格は、通常の節税とは次元の異なる話です。OECDの移転価格ガイドライン、日本の租税特別措置法、シンガポールの移転価格規則、そして両国間の租税条約――これらを横断的に理解した専門家でないと、適切な設計はできません。

国内の節税には強い税理士でも、国際税務が専門でなければ対応が難しいケースがあります。「なんとなくシンガポールに法人を作れば節税できる」という発想で動くと、コストだけかかって効果なし、最悪の場合は否認される、というパターンに陥ります。

まず国際税務専門の税理士と一緒に、年間の節税効果と設計・維持コストを試算するところから始めてください。経済合理性がある規模感かどうかを確認してから動くのが正しい順序です。


国内の節税施策をひととおり整備し終えて「次の手は?」と考えているなら、移転価格戦略は有力な選択肢になります。設計の精度と文書化の質が勝負を決める世界なので、まずは国際税務の専門家への相談から動き始めることをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。