先日、決算期を3ヶ月後に控えたある社長から、こんな相談を受けました。
「5年前に保険代理店から『法人保険に入れば保険料が全額損金になって節税できる』と聞いて、月30万円の逓増定期に入ったんです。でも先日、担当が変わった代理店から『2019年に税務上の扱いが変わって、今は節税になっていないかもしれない』と言われて……」
このパターン、本当によく聞きます。知らないまま「節税効果ゼロ」の法人保険を払い続けているケースが、今も驚くほど多く存在しています。
何が変わったのか——2019年7月の通達改正
2019年7月、国税庁が法人向け定期保険の税務上の取り扱いを根本から見直す通達改正を行いました。
それ以前は、長期平準定期保険など解約返戻率が高い保険でも、保険料の「1/2を損金算入」するスキームが広く活用されていました。法人税の節税と解約時の資産回収が同時にできるとして、多くの中小企業オーナーに販売されていたものです。
改正後は、解約返戻率の最高値が85%を超える保険については、当初10年間は保険料の70〜90%を「資産計上」しなければならなくなりました。損金にできる部分がほぼ消え、節税効果は実質ゼロです。
長期平準定期の「1/2損金」スキームも同様に封じられました。一時代を築いた節税手法が、通達一本で使えなくなったわけです。
今も使える合法スキーム、2つだけ
では法人保険での節税がすべて不可能になったかというと、そうではありません。改正後も合法で機能しているパターンが2つあります。
① 解約返戻率50%以下の定期保険
解約返戻率が常に50%以下に設定された定期保険は、保険料の全額を損金に算入できます。「掛け捨てに近い」設計なので、解約時に手元に戻ってくるお金はほとんどありませんが、保険料をそのまま経費にできるのは確かなメリットです。
社長や役員に万が一のことがあった場合の事業継続リスクを保障しながら、保険料を損金にしたいという会社に向いています。ただし「払った分が積み立てられる」という感覚はゼロなので、キャッシュアウトとして割り切る必要があります。
② 第三分野保険(がん・医療)の短期払い特例
もう一つが、がん保険・医療保険などの第三分野保険を短期払いで設計する方法です。被保険者1人あたりの年間保険料が30万円以下であれば、全額損金として計上できます。
役員が複数いれば人数分使えます。社長・専務・常務の3人なら最大年90万円、役員が5人いれば最大150万円の損金算入が可能です。
この方法の優れた点は、「節税」と「役員の医療保障」を同時に実現できることです。がんや重大疾病で役員が働けなくなるリスクに備えながら、保険料は全額経費になる。特に健康面での不安を持ちはじめた40〜50代の経営者には、合理的な選択肢です。
ただし、1人あたり年間30万円という上限は厳守です。この水準を超えると全額損金の特例が使えなくなるため、設計段階での確認が欠かせません。
「節税になる保険」を勧められたら確認すべきこと
今でも法人保険の営業は頻繁にあります。代理店の担当者から「この保険は損金になります」と説明を受けたとき、上記の①②のどちらに該当するかを確認することが重要です。
特に気をつけたいのが、「返戻率が高くて、なおかつ節税にもなる」という説明です。2019年以降のルールでは、この2つを同時に満たす設計は基本的に存在しません。返戻率を高くすれば損金割合が下がり、損金を最大化すれば返戻率は低くなる——どちらかを優先すれば、もう一方は犠牲になる構造です。
「節税効果があると聞いて加入したが、実際のところどうなのか分からない」という場合は、契約書と設計書を税理士に見せて現状を確認してみてください。改正前に加入した保険は条件によって従前の扱いが継続される場合もありますが、新規加入で同じ効果を期待するのは難しい状況です。
法人保険自体が悪いわけではありません。保障を目的として適切に設計すれば、事業継続や役員のリスク管理として十分な意味があります。ただ「節税のために保険に入る」という動機で動くときは、2019年以前の感覚のままでは損をする可能性が高い、ということは知っておいてください。
今期の決算対策として法人保険を検討しているなら、選択肢を①か②に絞ったうえで、契約前に必ず税理士に確認を取ることをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。