先日、売上2億円を超えたIT系の社長とお話しする機会がありました。「法人化したときに節税の話は聞いたんですが、最近どうも手詰まり感があって…」とおっしゃっていたので、いくつか確認させてもらったところ、3つの施策がまるごと手つかずでした。

試算してみると、年間で500万円近い差が生まれる可能性がありました。法人化した瞬間に節税は完成、ではないのです。むしろ法人になったからこそ使える仕組みが、意外と知られないまま放置されていることが多い。今回はその中でも「やっていない社長が特に多い」3つの落とし穴をお伝えします。

落とし穴1:自宅家賃をいまだに個人の財布から払っている

法人を持つ社長が自宅家賃を個人負担で払い続けているとしたら、それは相当もったいない話です。

役員社宅という制度があります。法人が物件を借り上げて社長に「転貸し」する形にするだけで、国税庁の通達に基づく計算式で算定した「賃貸料相当額」のみ個人負担にできます。残りは法人の経費です。

たとえば月20万円の家賃でも、計算式によっては社長の自己負担が数万円程度で済むケースがあります。差額15万円超が毎月法人経費になれば、年間180万円規模の話です。4〜5年続ければ、それだけで1000万円近い差になります。

物件の種類・面積によって計算式が変わりますし、既存契約を法人名義に切り替える手続きも必要です。オーナーへの説明や契約変更のタイミングを含めて、税理士と段取りを組んで進めるのがスムーズです。

落とし穴2:出張のたびに領収書だけ集めている

出張のたびに交通費の領収書をかき集めて精算している社長は多いと思います。それ自体は間違いではありませんが、「出張日当」という非課税の収入を別に作れることを知らずに機会を逃しているケースが後を絶ちません。

旅費規程を会社に整備すると、出張一回あたり一定金額の日当を支払えます。この日当は、規程がきちんと作られていれば所得税がかからず、社会保険料の対象にもなりません。受け取る側は手取りが増え、支払う会社側は経費計上できる。二重においしい制度です。

月に数回の出張がある社長なら、年間30万〜50万円の差が出ることもあります。「うちはほとんど出張がない」という場合でも、取引先への移動や視察を「出張」として規程に組み込める余地があることも多いです。

ひな形自体はすぐに作れますが、日当の金額設定が世間相場からかけ離れていると否認リスクが上がります。まず顧問税理士に「うちの業種・規模だと日当いくらが妥当か」を確認するところから始めてみてください。

落とし穴3:保険は入っているが「短期払い」を選んでいない

法人での保険活用は節税の定番ですが、「短期払い」になると途端に知らない社長が増えます。

医療保険などの第三分野保険を、保険期間より短い払込期間(10年払い、5年払いなど)で契約する方法があります。被保険者1人あたりの年間保険料が30万円以下であれば、支払った保険料を全額損金に算入できます。

通常の終身払いと比べると年間保険料は高くなりますが、その分が丸ごと経費になるため、法人税の節税効果を前倒しで得ながら、将来の解約返戻金という形で資産を積み立てられる構造です。役員1人あたり年30万円の枠があるので、役員が複数いれば枠はその分広がります。

ただし商品設計によって税務上の扱いが変わることがあります。「損金になる」という言葉だけを信じて契約を急ぐのは禁物です。必ず顧問税理士と一緒に数字を確認してから判断してください。


法人化は節税のゴールではなく、スタートラインです。今回の3つのうち一つでも手つかずなら、今期中に確認してみてください。特に旅費規程は作ること自体にほとんどコストがかかりません。「そういえばうちにはない」と気づいた方は、次の顧問税理士との面談で最初の議題にしてみるのがおすすめです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。