「三原さん、役員報酬って今から変えられますか?」
先日、都内で製造業を営む年商8億の社長から、こんな連絡が来ました。決算が3月末で、4月に入ってから「もっと給料を上げておけばよかった」と気づいたというのです。
結論から言います。3月決算の会社が役員報酬を変えられるのは、6月末までです。このタイミングを逃すと、次に変えられるのは来年の同じ時期。今の報酬額が、まるまる1年間固定されることになります。
毎月同額が「ルール」であるワケ
法人が役員報酬を損金(経費)として認めてもらうには、「定期同額給与」という要件を満たす必要があります。毎月同じ金額を支払い続けることが前提で、その金額を変えられるのは原則として事業年度開始から3ヶ月以内だけです。
なぜこんなルールがあるのか。決算が近づいて「利益が出そうだから報酬を増やして税金を減らそう」という操作を防ぐためです。逆に言えば、この3ヶ月のウィンドウ内ならば、合法的に報酬額を見直すことができます。
3月決算なら4〜6月末、4月決算なら5〜7月末。自分の決算月から逆算して、毎年このタイミングを意識しておくことが重要です。
「税率差」の設計が節税の肝
役員報酬の最適化とは、「会社に残す利益」と「個人が受け取る報酬」のバランスを整えることです。
法人税の実効税率は中小企業でおおよそ20〜35%程度。一方、個人の所得税は累進課税で、高所得になると所得税と住民税を合わせて最大55%にもなります。どちらに偏りすぎても損をします。
報酬が年間1,000万円を超えてくると、所得税の限界税率が一気に上がる分岐点があります。ここを意識せずに「去年と同じ金額でいいか」と決めてしまうと、数百万〜1,000万円以上の差が出ることがあるのです。業績が上がっている会社ほど、この設計がおろそかになりがちです。
「去年と同じでいい」がいちばん危ない
毎年このタイミングに無自覚なまま「とりあえず現状維持で」と決めてしまう社長は少なくありません。でも、会社の利益予測は毎年変わります。今期は大きく利益が出そうなら報酬を増やして個人に分散させる、逆に業績が落ちているなら報酬を下げてキャッシュを守る、という判断が毎年必要です。
また、配偶者や後継者を役員にして報酬を分散させる手法も有効ですが、「実態が伴っているか」が問われます。業務の実態と取締役会議事録の整備は、最低限の前提条件です。
期中増額の「罠」を知っておく
一度決めた役員報酬を期中に増額した場合、増額した差額部分は損金として認められません。たとえば月50万円の報酬を期中に80万円へ上げると、差額の30万円は経費にならず、法人税の課税対象になってしまいます。
逆に減額については、業績悪化など一定の要件を満たせば例外が認められるケースもあります。ただし要件が細かく、後から「実は満たしていなかった」と指摘されることもあります。
変えるなら、正しいタイミングで、正しい手続きで。これが鉄則です。
今週中に一度、税理士に連絡を
3月決算の会社なら、役員報酬を変えられるのは今月(6月)末が最後です。「今の金額で本当に最適か」を数字でシミュレーションしてもらうだけで、数百万単位の差が出ることがあります。
決算が終わってから「あのとき変えておけばよかった」と後悔しないために、今週中に顧問税理士へ一度連絡を入れることをおすすめします。来期の業績予測と合わせて相談すると、より精度の高いシミュレーションが出てきます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。