先月、ある社長からこんな連絡が来ました。「今期から役員報酬を上げようと思って税理士に相談したら、もう変えられないって言われた。どういうこと?」——3月決算の会社で、相談があったのは8月のことでした。

残念ながら、その時点では手遅れです。役員報酬の変更には、法律で定められた期限があるからです。

役員報酬は「いつでも変えられる」ものではない

法人税法では、役員報酬を経費(損金)として認めるために「定期同額給与」というルールが定められています。毎月決まった金額を支払い続けること、というシンプルな条件です。

ただしこの金額を変更できるのは、事業年度開始から3ヶ月以内という制限があります。3月決算の会社なら、変更期限は6月末。4月に始まった新年度から数えて3ヶ月、この期限を1日でも過ぎると「期限内に変更した定期同額給与」として認められなくなります。

たとえば月額50万円から70万円に増額した場合、差額の20万円分が毎月損金不算入。12ヶ月で240万円が経費として使えない計算になります。

「損金不算入」が引き起こす、静かな二重課税

損金不算入の本当の怖さは、単に経費が減るだけではありません。

役員報酬は社長個人にとって給与所得です。所得税・住民税がかかります。そして損金不算入になった部分は、法人側でも課税対象になる。同じお金に対して、個人と法人の両方で税金が発生するという構造です。

所得税の最高税率が55%、法人実効税率が約34%——理論上は同じ1円に対してほぼ90%近い税負担が生じることもあります(実際は構造によって異なります)。役員報酬の設計ミスがいかに高くつくか、数字で見るとよくわかります。

実際、役員報酬の設計を最適化するだけで、年間の節税差が2,000万円前後になる事例も珍しくありません。年商数億円規模の中小企業であれば、これは十分に現実的な話です。

「税理士に任せてる」が最も危険な理由

ここで多くの社長が持つのが「税理士に任せているから大丈夫」という感覚です。

ところが税理士の本来の仕事は「申告書を正確に作ること」です。毎期、社長の役員報酬が最適かどうかをプロアクティブに提案してくれる税理士は、残念ながらそう多くはありません。「見直しが必要なら社長から連絡が来るだろう」という前提で動いているケースがほとんどです。

つまり、役員報酬の見直しは社長自身が「今期はどうする?」と意識して動かない限り、何も変わらないまま期限を迎えてしまいます。任せっきりにしているから安心、ではなく、任せっきりにしているから見落とされる——そういうリスクだということです。

期限前に確認しておくべきこと

変更期限が迫っているこの時期、最低限チェックしておきたいポイントがあります。

まずは今期の利益予測です。このまま決算を迎えるとどのくらいの利益が出そうか、おおよその見通しを持つことが起点になります。次に、個人の所得と法人の利益のバランス。どちらで課税される方が有利かは、両者の税率を比較して判断します。そして忘れがちなのが社会保険料への影響です。役員報酬を増やすと健康保険・厚生年金の負担も増えるため、手取りベースで試算しておく必要があります。

これらは税理士に依頼すれば試算してもらえる内容です。ただし、期限ギリギリに相談すると対応が間に合わないこともあります。3月決算の方は、今すぐ動くのが鉄則です。

今日、変更期限をカレンダーに入れてください

役員報酬の最適化は、毎年繰り返す作業です。「去年と同じでいい」と放置していると、業績や税制の変化に対応できなくなります。

3月決算なら6月末、12月決算なら3月末——自社の変更期限を、今日のうちにカレンダーに登録しておくことをおすすめします。年に1度、この日が来る前に税理士と役員報酬の話をする習慣をつけるだけで、数百万円単位の節税差が生まれることもあります。

「まだ今期の見直しができていない」という社長は、今が本当にラストチャンスです。今すぐ担当の税理士に連絡を入れてみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。