先日、ある建設業の社長からこんな相談を受けました。「税務調査が入って、役員報酬が高すぎると言われた。どういうことですか?」と。
年商10億円、社員40人の会社を20年以上切り盛りしてきた方です。毎月800万円の役員報酬を設定していましたが、調査の結果、年間2,400万円分が「不相当に高額」として否認され、法人税の追加徴収に加えて過少申告加算税まで課されることになりました。
役員報酬は高いほど節税になる——その前提が、実は大きな落とし穴になっていたのです。
役員報酬には「高くしすぎると損金にならない」ルールがある
法人税法第34条に、見落とされがちな規定があります。役員報酬のうち「不相当に高額」な部分は損金に算入しない、というものです。
通常の従業員給与は原則として全額損金算入ですが、役員は別扱い。同業・同規模の他社と比べて明らかに高すぎると判断された金額は、経費として認められません。法人税の計算から除外されるため、その分だけ課税所得が増えることになります。
しかも、否認された場合は法人税の追加徴収だけでは済みません。過少申告加算税として10〜15%が上乗せされます。節税のつもりで高く設定したはずが、否認後には余分に税金を払うはめになるのです。
億単位の報酬が否認された、ある社長の話
あるサービス業の社長(年商18億円規模)が、毎月900万円・年間約1億800万円の役員報酬を設定していました。業績が好調な時期の設定で、社長本人は「自分が会社を動かしてきた実績がある」と確信していました。
ところが税務調査で、同業他社の統計データと照合した結果、「不相当に高額」と認定されました。否認されたのは年間約4,500万円分。法人税が約1,800万円追加課税され、さらに過少申告加算税15%(270万円)が加算。最終的な追加負担は2,070万円に達しました。
節税しようとして設定した役員報酬が、逆に2,000万円超の出費を生む結果になったのです。
「不相当に高額」かどうかは3つの基準で判定される
税務調査官が役員報酬の適正水準を見るとき、主に3つの要素を使います。
① 職務内容と実態 何をどれだけやっているか。複数事業の兼務、現場への関与度、意思決定の実態があるかどうか。「社長なんだから高くて当然」という主張は通りません。名ばかり役員との区別が厳しく問われます。
② 会社の業績・規模 売上・利益・従業員数と報酬のバランスが見られます。赤字が続く中で高額報酬を取り続けていると、調査時に特に厳しい目を向けられます。
③ 同業他社の平均水準 これが最も重視される要素です。国税庁は業種・規模別の報酬統計を保有しており、そこから大幅に外れていると否認リスクが跳ね上がります。「業界の相場を知らなかった」では防ぐことができません。
設定前に整えておくべき「根拠」
役員報酬は期首に決めると原則1年間変更できません(定期同額給与の縛り)。だからこそ設定前に根拠を固めておく必要があります。
まず、職務の実態を文書化すること。担っている業務・意思決定の範囲・責任の所在を議事録や職務分掌規程に落としておく。「自分がすべてやっている」だけでは証拠になりません。調査が入ったときに提示できる文書が必要です。
次に、同業他社との比較資料を作ること。業界団体の統計、上場企業の有価証券報告書、業界誌の調査レポートなどを参照して、自社の報酬水準が異常値でないことを説明できる根拠を用意しておく。これがあるかどうかで、調査時の交渉力がまったく変わります。
節税効果と否認リスクは必ずセットで評価する
役員報酬を増やすと法人税は下がります。これは事実です。ただし、個人の所得税・住民税・社会保険料も増えるため、単純に上げれば得というわけでもない。そこに否認リスクまで加わります。
「この水準は問題ないか」を確認せずに設定するのは、税務上のギャンブルです。否認されてから対処しようとしても、加算税を含む追加負担は相当な金額になります。
来期から大きく報酬を変えようとしているなら、期首前に一度、同業他社データとの比較を含めて顧問税理士に相談しておくことを強くおすすめします。設定後に後悔しないための一手間が、数百万円の差を生むことがあります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。