先日、顧問先ではない経営者から相談の電話が入りました。「税務調査が終わって、役員報酬を8,000万円否認されました。どういうことなのか教えてもらえますか」——そう言われた瞬間、正直なところ「ああ、これは典型的なパターンだ」と思いました。

役員報酬の過大認定は、年間300件を超えています。決して珍しい事例ではなく、税務調査の現場では日常的に起きていることです。そして否認される社長には、不思議なほど共通したパターンがあります。

狙われる社長に共通する3つの特徴

調査の現場で繰り返し見てきたのは、次の3点が重なっているケースです。

業績の割に報酬が突出している

売上や利益の水準に対して、役員報酬の額が明らかに高い状態です。「自分が稼いだお金なのだから、いくら取ってもかまわない」という感覚は経営者として自然なことです。しかし税法の世界では、「役員報酬は職務に対する対価」という考え方が基本になります。業績との連動性が薄く、根拠なく高い水準が続くと、調査官の目に留まりやすくなります。

職務内容の根拠書類が存在しない

社長がどんな業務を担い、どれだけの責任を負っているかを示す書類がない状態です。口頭では「私が全部やっています」と言えても、それを客観的に証明できる資料がなければ、調査官には確認のしようがありません。「言っていること」と「書類があること」は、調査の場では全く別の話なのです。

同業他社との比較データがない

自社の報酬水準が業界平均と比べて適正かどうかを示せる資料がない状態です。「うちの業種ではこれくらいが相場」という主張は、客観的なデータで裏付けなければ意味をなしません。

税務調査官が使う「比較の物差し」

役員報酬の妥当性を判断するとき、調査官は「類似法人比準法」と呼ばれる手法を使います。

同業種・同規模の法人の役員報酬と比較して、自社の水準が著しく高いかどうかを確認する方法です。国税庁のデータベースには、業種コードと売上規模ごとの報酬相場が蓄積されており、調査官はそのデータを根拠に「あなたの会社の規模と業種では、役員報酬の相場はおよそ〇〇万円ですが、なぜここまで高いのですか?」と問いかけてきます。

この問いに「適正だと思っていたから」「以前からそうだったから」という答えでは通りません。「なぜその金額なのか」を客観的に説明できる根拠が必要です。用意できない場合、過大部分は損金不算入として否認されることになります。

否認されたときのダメージ感

たとえば役員報酬5,000万円のうち2,000万円が過大と認定され、損金不算入になった場合を考えてみます。

法人税率30%で単純計算すると、追加で発生する法人税は600万円。さらに申告内容が誤っていたとして過少申告加算税が10〜15%上乗せされますから、追徴額は660〜690万円という水準に達します。延滞税も発生するため、最終的な負担はさらに重くなります。

加えて、否認された金額が「社長個人への隠れた給与」として扱われるケースもあります。そうなると個人の所得税・住民税にも影響が出て、二重のダメージを受けることになるのです。

対策はシンプル。「根拠を文書に残す」だけ

難しい対策は必要ありません。報酬の水準が決まった理由を、きちんと書類として残しておくこと——それだけです。

具体的には、以下の3点を揃えておくことをおすすめします。

  • 職務内容記述書: 社長がどんな業務を担い、何に責任を持っているかを文章でまとめたもの
  • 業績貢献レポート: 売上への寄与、経営判断の内容、会社の成長に果たした役割など
  • 同業他社との比較データ: 業界団体の統計、公開されている企業情報など

この3点が揃っているだけで、調査官の心証は大きく変わります。「なぜこんな書類を作らないといけないのか」と感じる社長もいますが、これは防衛のためのものではありません。「あなたの貢献に見合った正当な報酬を受け取っていることを証明する」ための書類です。

今期の役員報酬を見直す前に確認したいこと

役員報酬は原則として期の途中での変更が認められていません。変更できるのは定時株主総会のタイミングが基本です(一定の臨時改訂を除く)。

来期の報酬を決める前に、現在の水準が業界相場と大きく乖離していないかを顧問税理士に確認しておくことをおすすめします。相談のベストタイミングは「決めた後」ではなく「決める前」です。まだ職務内容の根拠書類を整備していないなら、今期中に用意しておくのが先決です。書類一枚の準備が、数百万円の追徴を防ぐことになるかもしれません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。