先日、年商10億を超えた製造業の社長から、こんな相談を受けました。「役員報酬を1億円に上げようと思っているんだけど、税金でほとんど持っていかれると聞いて怖くて踏み切れない」。
この不安は、とても正直な感覚だと思います。実際に1億円をそのまま個人で受け取ると、所得税と住民税を合わせた実効税率は45%を超えることがあり、手取りが5,500万円台にとどまるケースも珍しくありません。1億円受け取って5,500万円しか残らない——これが設計なしの現実です。
でも、設計次第でこの数字は大きく変わります。年収1億円ベースで手取り6,700万円を実現した事例も、実際に存在します。差額は1,200万円。毎年1,200万円の差がつく話ですから、やっぱり無視できません。
「所得の分散」という正攻法
日本の所得税は累進課税制度を採っています。つまり、1人の個人に所得が集中すればするほど、税率が段階的に跳ね上がる仕組みです。
だとすれば、解決の方向性はシンプルです。1人に集中している所得を、複数の人・複数の器に分散させる。これが所得分散という考え方の基本であり、税務上も認められた正攻法です。
具体的な手段は大きく2つあります。
家族を役員に迎える
まず一つ目が、配偶者や成人した子どもを会社の役員にして、適正な報酬を支払う方法です。
たとえば1億円の役員報酬を、代表自身が6,000万円、配偶者が2,000万円、成人の子どもが2,000万円で受け取ると仮定します。それぞれの所得税率は、1人に集中していたときより格段に低くなり、家族3人の合計税負担は大きく圧縮されます。
ただし、大切な注意点があります。支払う報酬が「不相当に高額」と税務署に判断されると、その超過部分が損金として認められなくなります。役員報酬は、職務の内容・会社の規模・業界水準に照らして妥当な金額でなければなりません。名ばかり役員への高額報酬は論外ですが、実際に職務を担っている家族への適正報酬は、有効な節税手段として機能します。
持株会社を組み合わせる
二つ目が、持株会社(ホールディングス)の活用です。
事業会社の株式を持株会社に持たせ、事業会社から持株会社へ配当を流す設計です。個人への役員報酬を抑えながら、持株会社に資金を蓄積することができます。法人間の配当には「受取配当等の益金不算入」という制度があり、一定の条件を満たせば配当の大部分が法人税の対象外になります。
個人の所得税・住民税の最高税率が合計55%に達するのに対し、法人税の実効税率は25〜30%台です。この税率差を活かして資金を法人に留め置くことが、持株会社活用の核心です。
この2つを組み合わせることで、全体の実効税率を28%台まで圧縮できるケースが出てきます。
見落としがちな「留保金課税」
ただし、持株会社への資金蓄積には一つ罠があります。
同族会社が利益を内部留保しすぎると、「特定同族会社の留保金課税」が適用される場合があります。通常の法人税に加えて、留保した利益の一部に追加課税される仕組みで、資本金が1億円超の法人が対象です。設計を誤ると節税どころか余計な税負担を招くことになるため、持株会社の規模と留保額のバランスは、税理士と事前に精緻に詰めることが必須です。
「知らなかった」で毎年1,000万円の差がつく
正直なところ、税理士の中にもこうした設計を積極的に提案してくれる人と、そうでない人がいます。「顧問税理士から一度もそんな話を聞いたことがない」という社長は、実は少なくありません。
役員報酬1億円クラスの最適設計は、一般的な記帳代行的な顧問契約の範囲を超えた、踏み込んだ税務戦略の話です。自分から動かないと、誰も教えてくれないまま毎年1,000万円以上の差がつき続けます。
すでに年商が数億〜10億円規模に達しているなら、一度「所得分散の設計」をテーマに税理士と向き合って話してみてください。今期の決算が終わる前に、具体的な数字でシミュレーションしておくのがおすすめです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。