先日、こんな相談を受けました。

「年商10億を超えたのに、なぜか手取りが増えた実感がない」——そう話してくれたのは、製造業を営む50代の社長です。売上は右肩上がり、会社の内部留保も積み上がっている。なのに役員報酬を上げれば上げるほど、税金と社会保険料に消えていく額が増えていく感覚があると言うのです。

年収5,000万円でも、税引後の手取りは2,400〜2,600万円ほど。理由はシンプルで、所得税の最高税率55%(所得税45%+住民税10%)の影響をまともに受けていたからです。

これはその社長だけの話ではありません。年商10億クラスになっても旧来の「役員報酬を高く設定する」発想のまま動いている社長は多く、それが手取りを圧迫し続けています。

「出口設計」に切り替えると、同じお金の重みが変わる

役員報酬を毎年受け取り続けると、所得税55%の世界から抜け出せません。でも同じお金を「役員退職金」として受け取ると話が変わります。

役員退職金には「退職所得控除」が適用されます。勤続年数20年超なら1年あたり70万円の控除があり、さらに控除後の残額を1/2にしてから課税する仕組みです。

勤続30年で1億円の退職金を受け取る場合、退職所得控除は800万円+(30年−20年)×70万円=1,500万円。残り8,500万円の半分、4,250万円が課税所得となります。毎年の給与として受け取り続けるケースと比べると、実効税率は大幅に下がります。

「稼ぎ方」を変えるのではなく、「受け取り方のタイミングと器」を変える。これが出口設計の本質です。

家族を役員にして報酬を「家族全体」で受け取る

二つ目が、家族役員を活用した報酬分散です。

配偶者や後継者を役員に就任させ、業務実態を整えたうえで適正な報酬を支払う。古典的な手法ですが、業務実態の有無が税務調査での争点になる点は押さえておく必要があります。役員会への参加記録、実際に担っている業務の内容、それに見合った報酬水準——この3点が整っていることが前提です。

逆に言えば、この3点が整っていれば効果は絶大です。社長一人に年収5,000万円が集中している場合、所得税率はほぼ最高水準。でも家族3人で2,000万円・1,500万円・1,500万円に分散すれば、それぞれが低い税率帯に収まり、家族全体の手取りが年に数千万円単位で変わります。

「家族に仕事を任せている実態がある」なら、それを正しく報酬設計に反映させるだけです。

持株会社スキームで税率と社会保険料を「同時に」最適化する

三つ目が、持株会社(ホールディングス)の設立です。

仕組みはシンプルです。事業会社の利益を持株会社に配当として移し、そこから役員報酬を再設計する。配当には社会保険料がかかりません。事業会社から直接高額報酬を受け取ると、標準報酬月額に応じて社会保険料も比例して増えますが、持株会社を挟むことで税率と社会保険料の両方をコントロールできるようになります。

加えて、グループ内の資金融通や将来の事業承継にも持株会社は有利に機能します。「節税のため」だけでなく、経営の柔軟性という観点からも、年商10億を超えたタイミングで検討する価値のある器です。

3戦略を組み合わせて、初めて3億の差が生まれる

退職金設計・家族役員の報酬分散・持株会社スキーム——この3つはそれぞれ単体でも効果はあります。でも組み合わせることで初めて、生涯の節税額が3億円規模になってきます。

累進課税という構造の中で、「収入を分散する」「受け取りのタイミングをずらす」「会社の器を複数持つ」という3つのアプローチが、それぞれ異なる角度から税負担を下げるからです。一つだけでは小手先の対策にすぎませんが、出口設計全体として組み直すと、話のスケールが変わります。

今の顧問税理士がこの話をまだしてくれていないなら、「出口設計について整理したい」と一度切り出してみてください。もしくはホールディングス設計を専門とする税理士への相談を検討するタイミングかもしれません。年商10億を超えたら、「稼ぎ方」よりも**「受け取り方の設計」が手取りの最大変数**になります。今期の決算前に、一度立ち止まって整理しておくことをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。