先月、ある製造業の社長から夜に電話がありました。「顧問税理士から連絡があって、税務調査で経費1億円を全部否認されそうだ」と。声が、明らかに震えていました。
その会社、年商は12億円。決して小さな会社ではありません。それでも、一度の税務調査で会社の存続を揺るがすような事態になりかけていた。
あなたの会社は、大丈夫ですか?
1億円の経費否認で、実際にいくら取られるか
まず、数字で現実を見てください。
年商10億超の法人が1億円の経費を否認された場合、追徴税額は概算で約3,400万円。法人税・地方税を合わせた実効税率で計算すると、この水準になります。
問題はここからです。税務署が「仮装・隠蔽があった」と判断すると、通常の過少申告加算税ではなく「重加算税」が適用されます。税率は35%。これが上乗せされると、最終的な納税額は4,600万円を超えるケースも珍しくありません。
資金繰りで言えば、手元資金が4,600万円を一度に持っていかれる。これは、多くの中小企業にとって存亡の危機に直結する数字です。
税務署が「狙う」3つのパターン
税務調査に選ばれる会社には、共通のパターンがあります。私がこれまで見てきた案件から、特に警戒すべき3点を整理しました。
1. 前年比で経費が急激に増えている
売上がほぼ横ばいなのに、経費だけが急増している決算書は、税務署のシステムに自動でフラグが立ちます。「なぜ増えたのか」を説明できる根拠書類がなければ、調査官の格好の標的になります。
2. 役員報酬が大幅に変動している
役員報酬は原則として期中に変更できません。にもかかわらず変動がある場合、または設定根拠が不明瞭な場合、税務署は「意図的な利益操作」と見なすことがあります。
3. 不動産SPCや海外スキームに絡む取引
節税目的の不動産特定共同事業(SPC)や、海外法人を使ったスキームは、それ自体が違法ではありません。ただし、証憑書類の整備が甘いと一気に「実態のない取引」と疑われます。調査官は書類の不備を突いてきます。
守るのは「金額」ではなく「証拠」
ここが最も重要なポイントです。
税務調査で否認を防ぐのは、経費の金額を抑えることではありません。「なぜその支出が業務に必要だったか」を証明できる書類があるかどうか、それだけです。
最低限そろえておくべき書類は、大きく3種類です。
- 契約書:取引の目的・金額・期間が明記されているもの
- 取締役会議事録:大型の経費支出や役員報酬の決定に関する決議記録
- 領収書・請求書:日付・宛名・摘要がすべて記載されているもの
この3種類を、取引ごとに紐付けて一元管理できているかどうか。これが、否認を受ける会社とそうでない会社の、最大の差です。
「後で整理しよう」が一番危ない
よく聞くのが、「帳簿はつけているけど、書類はバラバラで…」というケースです。
調査が入ってから書類を集めようとしても、数年前の取引の証憑を揃えるのは現実的に難しい。しかも、調査中に書類が出てこないこと自体が「隠蔽」の証拠と受け取られるリスクがあります。
書類の整備は、売上が上がれば上がるほど複雑になります。年商が10億を超えてきた段階で、証憑管理の体制を一度見直すのが賢明です。
今期中に、一度だけやっておくこと
「うちはまだ税務調査に来たことがないから大丈夫」という声もよく聞きます。ただ、税務調査は事前告知なく始まるのが基本です。来てから準備しても遅い。
証憑書類の管理体制がまだ整っていない場合は、今期中に顧問税理士と一度「書類の棚卸し」をする機会を設けることをおすすめします。金額より書類。それだけで、数千万円のリスクを手放すことができます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。