先日、年商12億の製造業を営むA社長から、こんな連絡が届きました。

「税務署から調査の連絡が来たんですが、これって普通のことですか?」

A社長は経営歴20年のベテランで、毎年きちんと申告してきた方です。それでも初めての税務調査の連絡には動揺を隠せないご様子でした。実はこれ、年商10億を超えた法人にとっては「いつか来るもの」として備えておくべきイベントなんです。

年商10億を超えると、税務調査率は跳ね上がる

国税庁のデータをもとに推計すると、年商10億円超の法人における税務調査の選定率は約15%とされています。

単純計算で、5〜7社に1社は数年以内に調査対象になる水準です。年商1億未満の中小企業が1〜2%程度であることを考えると、規模が大きくなるほど「当たり前のリスク」として見ておく必要があります。

「うちはちゃんとやっている」という自信は大切ですが、税務調査は不正を疑っているからだけでなく、申告内容の確認や業種別のサンプリングでも行われます。売上規模が大きくなれば、それだけ税務署の目も向きやすくなるのが現実です。

追徴額が膨らむ「重加算税」の仕組み

税務調査で一番怖いのは、追徴本税そのものよりも「重加算税」の認定です。

通常の申告漏れであれば、過少申告加算税(10〜15%)と延滞税で済みます。ところが、隠蔽や仮装と判断されると「重加算税」が適用され、35%が上乗せされます。

たとえば、1億円の申告漏れが認定されたケースを考えてみましょう。本税1億円に重加算税35%を加えると、請求額は1.35億円を超えます。さらに延滞税が数年分積み重なれば、最終的な支払いはさらに増えます。

重加算税が怖いのは「意図的でなくても認定されうる」点です。経理担当者のミスや、前任者から引き継いだ処理の慣習が積み重なっていたというケースでも、帳簿上の不自然さが発覚すれば隠蔽と見なされるリスクがあります。

税務署が特に目を光らせる3つのポイント

規模の大きい法人を調査する際、税務調査官が必ずといっていいほど確認する箇所があります。

役員報酬は、定期同額給与の要件や過大報酬の問題が発生しやすい科目です。特に増減があった期は、根拠となる議事録や合理的な理由が問われます。「社長の判断で変えた」では通らないことがあります。

交際費は接待交際費の損金算入限度額(年800万円または飲食費の50%)の確認はもちろん、プライベート利用との区別が焦点になります。参加者や目的が曖昧なものは、否認のターゲットになりやすいです。

M&A後の資産計上は近年、特に注意が必要です。のれん代の償却処理、取得した会社の棚卸資産・固定資産の評価額など、買収後の処理は複雑で判断が割れやすく、調査での指摘事項になりやすいポイントです。

「備える」ことで結果は大きく変わる

税務調査は、事前に準備できるリスクです。

調査が入る前から「取引の合理的な説明ができる状態」を作っておくことが重要です。契約書・議事録・支払い根拠の整理、交際費の参加者リストや目的の記録、役員報酬改定の経緯をまとめた書類——これらが揃っているだけで、調査官との対話がまったく異なります。

また、税務調査に慣れた税理士が立ち会うか否かで、調査の展開が大きく変わることもあります。調査官は事前の準備状況を見ています。「きちんと管理している会社」だと分かれば、調査の深掘り度合いも変わってくるのです。

年商10億を超えたタイミングは、一度顧問税理士と「税務調査対応の棚卸し」をするのに最適な機会です。何か後ろめたいことがなくても、「万が一に備えた体制」を整えておくことが、経営リスクの管理につながります。

今期の決算が終わったら、まず交際費の記録整備と役員報酬改定の議事録確認から始めてみてください。それだけで、いざというときの安心感がまるで違います。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。