先日、食品卸売業を営む社長からこんな話を聞きました。「毎年1億円以上の法人税を払っているのに、税理士から提案されるのは保険か経費の話ばかり。もっとスケールの大きい手はないのか」と。
その感覚は正しいです。年商10億円を超えてくると、保険や節税グッズでできることには限界があります。そういった規模の経営者に向けて、あまり表に出てこない正規の節税制度があります。「外国子会社配当の益金不算入制度」、通称・海外SPCスキームと呼ばれるものです。
受取配当の95%が「なかったこと」になる
結論から言います。
法人が一定の要件を満たす外国子会社から配当を受け取った場合、その95%が益金不算入——つまり、法人税の計算対象から外れます。根拠は法人税法第23条の2。脱法でも裏技でもなく、国が認めた制度です。
残り5%は「配当獲得のための管理コスト相当」として課税されますが、それでも実質ほぼ全額が非課税扱いになります。
仮に海外SPCから10億円の配当を受け取ったとしましょう。益金不算入になるのは9.5億円。法人税率を34%とすると、節税効果は約3.2〜3.4億円。これは計算上の話ではなく、実際に使われているスキームです。
SPCとは何か——シンプルに言うと
SPCはSpecial Purpose Company、特別目的会社のことです。特定の投資目的のために設立された法人で、海外に置くことで国際的な税制の枠組みを活用できます。
仕組みはシンプルです。日本の自社がSPCに資金を投じ、SPCが不動産や金融資産などへ投資して収益を上げる。その利益をSPCが配当として還元する。この配当が、益金不算入の対象になります。
適用には2つの基本要件がある
どんな海外投資でも同じ扱いを受けられるわけではありません。制度を適用するには、以下の条件が必要です。
- 持株比率25%以上:日本法人が外国子会社の株式を25%以上保有していること
- 保有期間6ヶ月以上:配当支払日の前日時点で、継続して6ヶ月以上保有していること
特に保有期間は見落とされがちです。「配当が出るタイミングで出資すればいい」という発想では間に合いません。制度を使うなら、早めに設計に入ることが重要です。
タックスヘイブン対策税制という壁を越える
このスキームで必ず直面するのが、**CFC税制(タックスヘイブン対策税制)**です。
海外に子会社を設けると、「節税目的でタックスヘイブンに資産を移したのでは」という疑いが生じます。国税庁はこれに対して厳しく目を光らせており、現地に実態のない「ペーパーカンパニー」と判断された場合、子会社の所得を親会社に合算して課税してきます。
節税どころか、二重に課税されるリスクがあるということです。
CFC税制の網にかからないためには、その国に実態ある事業——現地スタッフ、オフィス、実際の業務——が必要です。この点を甘く見て設計すると、後の税務調査で全否認されるケースもあります。
なぜ多くの税理士が提案しないのか
正規の制度なのに、なぜ広まっていないのか。答えは単純で、設計が複雑だからです。
国際税務の専門知識が必要で、現地の弁護士・会計士との連携も必要になります。一般的な税理士の守備範囲を超えているため、「知らない」「対応できない」という事務所がほとんどです。設計ミスのリスクを嫌って、提案を避ける税理士も多い。結果として、恩恵を受けられるはずの社長に情報が届かない構造になっています。
年商10億を超えたら、一度は試算してみてほしい
このスキームは万人向けではありません。ある程度の余剰資金があり、海外投資に前向きで、長期的な視点で税負担を最適化したいと考えられる経営者向けです。
一方で、毎年数千万円以上の法人税を支払っているなら、「知らなかった」で放置するのは純粋に機会損失です。5年・10年のスパンで見たとき、その差は取り戻せない金額になることがあります。
国際税務を専門とする税理士または税務弁護士に相談するのが第一歩です。「外国子会社配当の益金不算入に対応していますか」と最初の問い合わせで確認してみてください。それだけで、専門性のある事務所かどうかがわかります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。