先日、ある社長からこんな相談を受けました。「税務調査が入って、追徴課税が1億円を超えそうだ。どうしたらいい?」という電話でした。
年商12億円の製造業で、業績も順調。顧問税理士もついていたのに、なぜこうなったのか。話を聞いてみると、3つの「よくある落とし穴」が見事に重なっていました。
どれも「知らなかった」では済まされない、法人オーナーなら必ず知っておくべきポイントです。あなたの会社は大丈夫でしょうか?
3位:役員退職金の設計ミス
役員退職金は、適切に設計すれば節税効果の高い手段のひとつです。損金算入できる退職金の目安として「最終月額報酬×勤続年数×功績倍率」という計算式が使われますが、ここで多くの会社が落とし穴にはまります。
功績倍率を3.0を超えて設定すると、税務署から「高すぎる」と否認されるリスクが急上昇します。これは法律で定められた上限ではなく、実務上の否認ラインです。「法律で禁止されていないから大丈夫」という解釈は通用しません。
さらに危険なのが、退職直前に役員報酬を大幅に引き上げるパターンです。退職の半年前から月給を100万円から200万円に増やし、その高い報酬をベースに退職金を計算すると、「意図的な操作」と見なされます。この場合、通常の過少申告加算税(10〜15%)ではなく、重加算税35%が加算される可能性があります。追徴税額が3000万円なら、加算税だけで1050万円が上乗せされる計算です。
退職金の設計は、退職する数年前から税理士と詰めておくことが絶対条件です。退職が決まってから動くのでは、手遅れになることがあります。
2位:法人保険の損金処理が旧ルールのまま
生命保険を使った法人節税は、かつて「全額損金保険」と呼ばれるスキームが流行しました。保険料を全額損金に落としながら、解約時に返戻金を受け取るという手法です。
ところが2019年、国税庁が通達を大きく改正しました。改正後の基準では、解約返戻率が85%を超える保険は、損金として全額計上できなくなっています。特に契約後最初の10年間は、保険料の多くを「資産計上」しなければならないケースが増えました。
問題は、この通達改正を知らずに、あるいは「うちは古い契約だから関係ない」と思い込んで、旧ルールのまま全額損金処理を続けている会社が少なくないことです。税務調査でこの処理が発覚した場合、正しく計上すべきだった差額分がそのまま追徴の対象になります。
「保険は節税になる」と聞いて加入したはいいが、その後の処理を見直していない会社は要注意です。契約内容と経理処理の整合性を、今すぐ確認してみてください。
1位:同族・関連会社間の取引価格
追徴金額が最も大きくなりやすく、かつ最も見落とされやすいのがこのパターンです。
同族会社グループ内や海外子会社との間で商品やサービスの売買が行われている場合、その取引価格が「独立した第三者同士が取引したであろう価格(独立企業間価格)」から大きく外れていると問題になります。これを「行為計算否認」といい、税務署はこの制度を使って取引を組み替え、課税関係を変えることができます。
典型的なパターンは、グループ内でサービスを原価以下で提供していたり、逆に相場より高値で仕入れていたりするケースです。「グループ内だから好きな価格で決めていい」というのは大きな誤解です。年商10億円を超える法人の税務調査では、このパターンが追徴の最大の原因になっているケースが非常に多いです。
取引の都度、合理的な価格設定の根拠を文書化しておくことが、最低限の防御策になります。
なぜ3つが同時に起きるのか
これらが怖いのは、単独で起きるのではなく、同時に発覚するケースが多いことです。
税務調査は通常3〜5年分をさかのぼります。役員退職金で2000万円、法人保険で3000万円、グループ取引で5000万円の追徴が重なれば、合計1億円を超えます。さらに重加算税が加わると、実際の支払い額はさらに膨らみます。
「うちの顧問税理士がいるから大丈夫」と思っている方も多いでしょうが、顧問税理士は日々の記帳や申告書作成が主な仕事です。こういったリスク設計まで踏み込んでくれているかどうかは、別の話です。
今からでも遅くありません。顧問税理士と年に一度、「役員退職金の見込み計算」「法人保険の損金処理の確認」「グループ取引の価格根拠の整備」という3点をテーマに棚卸しをしてみてください。それだけで、追徴課税の大きなリスクを大幅に減らすことができます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。