先日、ある建設会社の社長から電話が来ました。「決算前に法人保険を解約しようと思うのですが、税理士に相談したら青ざめた顔をされて……」というのです。
解約返戻金は5,000万円ほど出る予定で、一見すると大きな収入になるように見えました。でも実際には、手元に残るお金よりも税金の請求書の方が先にやってくる。そういう事態が、今まさにあちこちの会社で起きています。
2019年、法人保険のルールが大きく変わった
2019年6月、国税庁が通達を改正しました。それまで節税商品として人気だった「高返戻率型」の法人保険に、大きなブレーキがかかったのです。
改正のポイントは、「最高解約返戻率」に応じた損金算入割合の制限です。解約返戻率が85%を超えるような保険では、支払った保険料のうち損金として認められる割合が、わずか1〜3割に絞られました。
つまり、毎年1,000万円の保険料を払っていても、損金に落とせるのは100〜300万円。残りの700〜900万円は「資産計上」として帳簿に積み上がっていくだけです。
「節税している」は半分だけ正しい
よく「法人保険で節税できる」と聞くと思います。確かに完全なウソではありません。でも重要なのは、「どれだけ損金に落とせるか」という割合です。
たとえば損金算入率30%のプランを使っていたとします。保険料1,000万円のうち300万円だけが経費扱い。法人税率を30%とすると、その年の節税効果は90万円です。
一方で、残り700万円は「資産計上」として積み上がっていく。この積み上がった資産こそが、後で大きな問題を引き起こします。節税しているつもりで、実は将来の課税の種を育てているわけです。
解約したとき、何が起きるか
ここが本題です。
保険を解約すると「解約返戻金」が戻ってきます。仮に5,000万円受け取ったとしましょう。返戻金5,000万円のうち、これまで「資産計上」として積み上げてきた金額が2,000万円あったとします。差額の3,000万円は「雑収入」として法人の利益になります。
そう、3,000万円がまるごと課税対象です。法人税率30%なら、税負担は約900万円。「保険で節税できた」と思っていたのに、解約のタイミングで900万円の税金が来る。これが多くの社長が直面している現実です。
退職金との連動が「出口」の鍵
では、どうすれば良かったのか。
法人保険の王道は「退職金の原資」として活用することです。解約返戻金が戻ってきたタイミングで社長や役員に退職金を支払えば、退職金は損金算入できるため、3,000万円の雑収入を相殺できます。
ただし、これには綿密な設計が必要です。保険の解約時期と退職時期がずれてしまえば、課税を繰り延べているだけで最終的な税負担はほとんど変わりません。
あるメーカーの社長は70歳まで経営を続けるつもりが、体調を崩して予定より10年早く引退することになりました。退職金の準備も十分でなく、解約返戻金にまるごと課税。結果的に、保険を使わなかった場合よりも税負担が増えてしまったのです。
「課税の繰り延べ」という本質を理解する
法人保険の本質は節税ではなく、「課税の繰り延べ」です。
今の税負担を将来に先送りする仕組みであって、税金がゼロになるわけではありません。将来の出口(退職金、事業承継など)がしっかり設計されていれば有効ですが、出口が曖昧なまま保険料だけ払い続けていると、先延ばしにした税金が解約時に一気に噴き出します。
損金算入率50%以下のプランを何となく続けているなら、今すぐ立ち止まって考えてみてください。現在の資産計上の積み上がり額はいくらか。解約したときの雑収入はどのくらいになるか。退職金の設計と本当に連動しているか。これらを確認せずに保険を続けることは、穴の開いたバケツで水を貯めているようなものです。
今期中に、保険証書を一度引っ張り出してみる
保険代理店の担当者は、解約よりも継続や乗り換えを勧めがちです。新しい保険に切り替えることで彼らにコミッションが発生するからです。法人保険の設計を客観的に見直すなら、保険を売らない税理士に相談するのが一番確実です。
「この保険、続けた方がいいですか?」という一言を、次の打ち合わせのときにぜひ税理士に投げかけてみてください。設計を見直すだけで、何百万円もの税負担が変わることがあります。今期の決算が近いなら、ぜひこの機会に保険証書を引っ張り出して現状を確認してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。