先日、顧問先の社長から「保険営業マンに勧められた法人保険、本当に節税になってますか?」と聞かれました。確認してみると、実際の節税効果はごくわずかで、毎年数百万円の保険料を払い続けていました。

こうした事態は特別なことではありません。むしろ、法人保険の「落とし穴」を知らずに加入しているケースは非常に多い。今回は、現場でよく目にする設計ミスを3つ、具体的な数字とともにお伝えします。

ミス①「損金算入率が高い=節税効果が高い」は2019年以前の話

2019年6月、法人保険の税務ルールが大きく変わりました。それ以前は「全額損金」「半額損金」というシンプルな分類でしたが、改正後は最高解約返戻率によって損金算入率が細かく刻まれる仕組みになっています。

具体的には、最高解約返戻率が85%を超えると、損金算入率は保険料の50%以下に制限されます。つまり、貯蓄性が高く「将来しっかり戻ってくる」タイプの保険ほど、節税効果が低くなる設計になっているんです。

よくあるパターンが、2019年以前に組んだ設計をそのまま継続しているケースです。担当の保険営業マンから「この保険は節税になります」と言われたまま、実態を確認せずに払い続けている社長は少なくありません。

まず保険証券を引っ張り出して、「最高解約返戻率」の数字を確認してみてください。これが第一歩です。

ミス②解約と退職金、「1年のズレ」が3,000万円の損失を生む

法人保険を活用する代表的な方法が、「保険料を損金計上しながら退職金の原資を積み立て、引退時に解約して退職金に充てる」という設計です。正しく実行すれば、課税の繰り延べと保障を同時に得られるメリットがあります。

ところが、解約した年と退職金を支払った年が1年でもズレると、話が大きく変わります。

たとえば、3月決算の法人で2月に解約返戻金5,000万円を受け取り、退職金の支払いは翌年4月に設定していたとします。この場合、解約返戻金5,000万円は当期の益金として課税対象になりますが、退職金の損金算入は翌期。2つの会計年度に分かれてしまうんです。

本来、退職金と同じ期に解約していれば相殺できていたはずの課税が、スケジュールのズレ一つで発生します。この差額が、ケースによっては3,000万円規模になることも珍しくありません。

「タイミングくらい自分でわかる」と思いがちですが、決算期と退職予定月の兼ね合い、保険の解約手続きに要する時間、役員報酬との調整など、細かい変数が多い。税理士と保険担当者が連携した実行スケジュールの設計が不可欠です。

ミス③「損金算入できる」と「節税になる」は全く別の話

これが最も多い誤解です。「全額損金です」と聞くと、その分まるごと節税できると感じますよね。でも、損金算入できることと節税効果があることは、別の話です。

法人税の節税効果は、損金算入額×実効税率で計算されます。中小企業の実効税率はおおよそ25〜35%。仮に30%とすると、毎年500万円の保険料を全額損金算入できたとしても、一年あたりの節税効果は150万円です。

そして、将来受け取る解約返戻金には課税されます。500万円払って480万円戻ってきた場合、手元に残るのは480万円プラス節税効果の150万円で合計630万円。単純に500万円を積み立てるより130万円多く手元に残る計算になります。

ところが、解約返戻率が低い設計の場合、500万円払って370万円しか戻らなければ、トータルはマイナスです。「損金算入できている」という事実だけに注目して、長期的なキャッシュフローを試算していないと、こういう落とし穴にはまります。

法人保険の節税効果を正しく判断するには、払込総額・解約返戻金・節税効果の三つを合わせたトータルで評価する必要があります。

一度だけ立ち止まって確認してほしいこと

現在加入中の法人保険がある方は、以下の3点を確認してみてください。

  • 最高解約返戻率は何%か(85%超なら損金算入率が50%以下になる可能性あり)
  • 解約予定年度と退職金支払い予定年度は一致しているか
  • 払込総額・解約返戻金・節税効果をトータルで計算すると収支はプラスか

どれか一つでも「よくわからない」なら、担当税理士にすぐ相談することをおすすめします。特に退職が5年以内に視野に入っている方は、早めの設計見直しが肝心です。

法人保険自体は、正しく活用すれば有効なリスクヘッジ兼資産形成ツールです。ただ「節税になると聞いた」という理由だけで加入した保険を、設計の中身を確認しないまま払い続けるのはリスクがあります。

保険料は毎月出ていく現金です。その使い方が本当に会社の利益になっているか、一度だけ立ち止まって確認してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。