先日、資産10億円を持つある製造業の社長から、こんな相談を受けました。「このまま何もしなかったら、子どもに何が残せるんでしょうか」。
税務上の試算をしてみると、相続税だけで約3億円。財産の3割近くが税金として消える計算でした。最高税率55%という数字は知っていても、「自分ごと」として捉えていなかったようです。
相続税は、準備を始めた時期によって大きく差がつく税金です。何年も前から手を打っておくのと、亡くなる直前に慌てて動くのとでは、残せる金額が数千万円単位で変わってきます。今日は、実効性の高い3つの手法をご紹介します。
3位:暦年贈与は「早く・広く・計画的に」始める
年間110万円までの贈与は非課税、という話はご存じの方も多いと思います。ただ、2024年の税制改正でルールが大きく変わりました。
改正前は、亡くなる前3年以内の贈与が相続財産に加算されていましたが、改正後はこれが7年以内に延長されています。「終活で始めよう」と悠長に構えていると、せっかくの贈与が丸ごと無効になるリスクがあるわけです。
効果を最大限に引き出すには、「できるだけ早く、できるだけ多くの人に」渡すことが鍵です。子ども2人と孫2人の計4人に毎年110万円ずつ渡せば、年間440万円を非課税で移転できます。10年続ければ4,400万円。これが積み上がると、相続財産の圧縮効果はかなりのものになります。
ただし、毎年同じ金額を同じ時期に振り込み続けると「定期贈与」と見なされるリスクがあります。金額や時期を意図的にずらしつつ、贈与契約書も毎年作成しておくのが安全です。
2位:生命保険の非課税枠を満額使い切る
生命保険の死亡保険金には、相続税の非課税枠があります。法定相続人1人につき500万円が非課税になるというルールです。
たとえば、相続人が配偶者と子ども2人の合計3人いれば、500万円×3人=1,500万円がそのまま遺族の手元に残ります。相続税ゼロで。
この手法のメリットは、保険金が遺産分割協議の対象にならない点でもあります。現金や不動産は相続人同士で揉めることもありますが、保険金は受取人に直接渡ります。「確実にこの子に渡したい」という場合、保険を活用する意義は大きいです。
注意点は、保険料の原資をどこから出すかです。たとえば、毎年の暦年贈与で子どもに渡したお金を、子ども名義の保険に充てる組み合わせも有効です。設計次第で節税効果は何倍にもなります。
1位:不動産の「評価額」と「時価」の差を活かす
3つの対策の中で最も圧縮効果が大きいのが、不動産の活用です。
相続税の計算に使われる「評価額」は、実際の時価より低く設定されています。土地であれば路線価(時価の約80%)、建物であれば固定資産税評価額(時価の約60%)が基準です。つまり、現金1億円をそのまま持つより、1億円の不動産に換えるだけで相続税の対象額が圧縮されます。
さらに強力なのが、小規模宅地等の特例です。被相続人が住んでいた自宅の土地は、330㎡まで80%の評価減が受けられます。わかりやすく言うと、評価額10億円の土地が、特例適用後は2億円の評価になるということです。8億円分が「なかったこと」になる。これだけで相続税額は数億円単位で変わります。
ただし、この特例には適用要件が複数あります。誰が相続するか、相続後の土地の使い方、申告期限までの手続きなど、ケースによって判断が変わります。「たぶん使えるだろう」という思い込みで動くと痛い目を見るので、必ず税理士と事前に確認してください。
対策は「今日から」始める
3つの対策に共通しているのは、時間をかけるほど効果が大きくなるということです。相続が発生してからできることは、非常に限られています。
「まだ先の話」と思っているうちに、あっという間に7年はたちます。暦年贈与を始めるなら、今すぐ贈与契約書を1枚作ることから始めてみてください。それだけでも、確実に一歩前に進んでいます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。