先日、ある製造業の社長から深刻な相談を受けました。

「税理士に相続税の試算をしてもらったら、とんでもない金額が出てきて……。子どもたちが払えるわけないんです」

資産の総額は自社株・不動産・現預金を合わせて約5億円。何も対策をしなければ、相続発生時に2億円近い税負担が生じるケースもあります。しかも、相続税は原則として現金一括払い。会社の株を相続した子どもが、納税のために会社を売ることになった——そんな悲劇が実際に起きています。

今回は、こうした事態を防ぐために「今すぐ着手できる対策」を3つ、重要度の高い順にお伝えします。

まず見直したい:生命保険の「非課税枠」

意外と見落とされているのが、生命保険を使った節税です。

相続税には「生命保険金の非課税枠」があり、法定相続人1人につき500万円が非課税になります。相続人が3人いれば、合計1,500万円が課税対象から外れる計算です。

同じ1,500万円でも、現金でそのまま持っていれば全額課税されます。一方、一時払い終身保険に組み替えておくだけで、その分は相続税の対象外になります。保険料の原資は同じでも、受け取り方を変えるだけで税負担がまったく違ってくるのです。

「うちはもう加入している」という方も、枠を使い切れているかどうか、一度確認してみてください。加入額が非課税枠に満たないケースは、想像以上に多いものです。

手遅れになる前に:生前贈与は「今すぐ」始める

2024年の税制改正で、生前贈与のルールが大きく変わりました。

これまで「亡くなる3年前までの贈与は相続財産に持ち戻される」とされていましたが、改正後はこの期間が7年に延長されています(2024年1月1日以降の贈与から適用)。

つまり、亡くなる7年前より前に贈与した財産は相続財産に含まれませんが、7年以内の贈与は全額が相続財産に戻ってしまうのです。毎年110万円ずつ贈与を続けていた方も、この持ち戻しが適用されると、予想外の税負担が生じることがあります。

裏を返せば、早く始めれば始めるほど、持ち戻しの対象外になる贈与額が増えていきます。「まだ先でいい」と思っている間にも、贈与できたはずの時間は確実に減っていきます。

贈与契約書の作成や通帳管理など、形式的な要件も大切です。「口頭でやり取りしていただけ」では贈与と認めてもらえないこともあるので、しっかり記録を残しておきましょう。

最も影響が大きい:「現金のまま持ち続ける」リスク

3つの対策の中で、税負担への影響が最も大きいのがこれです。

現金5億円は、相続税の計算上も5億円として評価されます。どこにも逃げ場がなく、そのまま課税対象になります。

ところが、不動産に組み替えると評価額が圧縮されるケースがあります。土地には「小規模宅地等の特例」や路線価による評価があり、市場価格の6〜7割程度で評価されることも珍しくありません。さらに、賃貸物件であれば借家権割合・借地権割合の控除も加わります。

自社株を持株会社(ホールディングス)に組み込む手法も有効です。適切な設計のもとで株価評価を引き下げることができ、億単位で課税財産を減らせた事例も少なくありません。

ただし、不動産や持株会社の活用は専門的な設計が必要です。節税を急ぐあまり、収益性の低い物件を買ってしまったり、法人設立コストが回収できなかったりといった失敗も起きています。「評価が下がる」というだけで飛びつかず、キャッシュフローや出口戦略も含めて専門家と議論することが大切です。

「まだ大丈夫」が一番危ない

相続対策には時間が必要です。生前贈与は年数をかけてこそ効果が出ますし、不動産や法人活用は設計から実行まで数ヶ月かかることもあります。

「自分はまだ元気だから」「70歳になったら考えよう」——その感覚が、結果的に子どもたちに大きな負担を残すことになりかねません。

資産が1億円を超えているなら、一度は相続税の試算を受けてみることをおすすめします。具体的な数字を見て初めて、対策の優先順位が見えてきます。今期中に動き出せるかどうかが、将来の税負担を億単位で左右するかもしれません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。