先日、会社を株式譲渡で手放したある経営者の方からこんな相談を受けました。「税引き後の手取りが思ったより全然少なくて。3億円入ると思っていたのに、実際には半分くらいしか残らなかった」と。
なぜそうなるのか。そして、もし事前に知っていたら何か変わっていたのか。今日はそんな話をします。
個人で3億円の利益が出ると、税金はいくらかかるか
まず現実を直視しましょう。
株式の売却益や一部の投資利益が「申告分離課税」として扱われる場合、税率は一律20.315%です。3億円なら約6,000万円。これだけでも痛いですが、まだ許容範囲という方も多い。
問題は、利益の種類によっては「総合課税」になるケースがあるという点です。総合課税になると他の所得と合算され、税率は最大で約55%(所得税45%+住民税10%)にまで跳ね上がります。3億円の利益に55%がかかれば、税額は1億6,500万円。残るのは1億3,500万円です。
1億6,500万円という数字、冷静に考えると怖くないですか。
法人を使うと何が変わるか
個人ではなく、法人がその投資益を受け取る形に変える。法人の実効税率は、課税所得800万円を超えても33〜34%程度に抑えられます。個人の最高税率55%と比べると、20ポイント以上の差があります。
3億円に対して20%の差というのは、単純計算で6,000万円です。この差が「事前に設計できたかどうか」で生まれる。もちろん法人化には費用もかかりますし、設立タイミングや設計の正確さが命綱になります。ここを雑にやると後で痛い目に遭います(これは後述します)。
「持株会社スキーム」の考え方
富裕層の資産管理でよく使われるのが、持株会社(資産管理会社)の設立です。
個人がそのまま資産を保有するのではなく、「持株会社」という法人を設け、そこに投資を行わせる。受け取った利益は法人内に留保し、そこから給与・退職金・配当といった形で個人に落としていく。このルーティングを使うことで、課税のタイミングと税率の両方をコントロールできます。
ポイントは、「利益が出た後に動いても遅い」という点です。株式を売却する前に法人を設立し、保有形態を整えておく必要がある。思い立ったときにはすでに手遅れ、というケースが非常に多い。
オペレーティングリースという手法
法人税の課税所得を圧縮する手段として、オペレーティングリースも使われます。
航空機や船舶などの大型資産をリース事業に出資する仕組みで、初期に大きな損失を計上することで課税所得を一時的に圧縮できます。ただし、これは「節税」ではなく正確には「課税の繰延」です。後年に利益が戻ってくるタイミングで課税されます。
「税を消す」のではなく「税を先送りする」という理解が正確です。それでも、手元資金が多いうちに活用し、時間と運用益を味方につけるという意味では有効な手法です。
退職金スキームと組み合わせると
さらに法人から退職金を支払う形を組み合わせると、効果は増します。
退職金には「退職所得控除」という大きな控除があり、勤続年数に応じて非課税枠が設けられています。長期間にわたって法人を運営し、最終的に退職金として受け取ることで、実質的な税負担を大幅に下げることが可能です。
持株会社+オペレーティングリース+退職金スキームをうまく組み合わせた場合、当初の個人課税と比べて実質税負担が半分以下になるケースもあります。ただし「ケースによる」という部分が重要で、所得の種類・金額・タイミング・法人の設計次第で結果は大きく変わります。
「設計ミス」は大きなリスクを伴う
ここまで読んで「すぐやろう」と思った方に、一つ強く伝えたいことがあります。
この手の節税スキームは、設計を誤ると税務署に租税回避行為と認定されるリスクがあります。その場合に追加でかかるのが重加算税で、追徴税額に対してさらに35%が上乗せされます。節税どころか、余計に税金を払う結果になりかねない。
正しく機能するかどうかは、法人の実態があるかどうか、取引の経済的合理性があるかどうか、開示義務を守っているかどうかにかかっています。「聞いた話をそのまま実行した」では守られません。
今から動くなら、まず何をすべきか
近く大きな投資益が見込まれる方は、今すぐ動くことをおすすめします。まず資産管理会社を持っていないなら設立の検討を。次に、現在の投資・保有資産の形態を棚卸しして、どの所得がどの課税区分に入るかを確認する。そしてこれらを、資産税と法人税の両方に精通した税理士と一緒に設計する。
3億円の利益がある場合、1%の設計の違いが300万円の差になります。費用をかけて専門家に相談する価値は十分あります。まだ資産管理会社を持っていない富裕層の方は、次の決算前に一度だけ相談してみてください。動けるタイミングは、思っているより短いです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。